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まどろみ  作者: 中島 遼
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長谷川5

「ところで高津君、どうして椎名さんに興味あるの?」

 高津の湯飲みに茶を入れながら、長谷川が聞いた。

「北の椎名さんって言うおじいさんと知り合いになったんです」

 長谷川は驚いた。

「あの偏屈じいさんに? それは奇矯なことだ。彼はよほどのことがない限り、知らない人とは会話しない。知ってる人とでも距離を置く。そもそも親戚でも滅多に会わないって……」

 言いながら長谷川はまじまじと高津を見る。

「あの、まさかとは思うけど、養子にどうかと言われたんじゃないだろうね」

 高津は頷く。

「何だかそんなことをちらりと……」

「ええっ!」

 大げさなぐらい長谷川は驚く。

「で、どうするの?」

「どうするもこうするも、俺は一人っ子で長男だし、絶対に無理なんです」

 長谷川は少し顔をしかめた。

「お父さんはこの町出身?」

「父は北町、母はこの町です」

 長谷川が考え込んだ。

「そうか……」

 ちょっと不安を感じた高津に、長谷川は思い出したように菓子を手のひらで示した。

「お茶とお菓子、食べてよ。特にここのきんとんは美味しいよ」

「ありがとうございます」

 萌が頷いて、黒文字できんとんを割った。

 高津も干菓子を一つつまむ。

「まあ、隠すこともないから言っておくけど、北の椎名に気に入られたんなら、養子にならないでいるのは相当の覚悟がいる。君、好きな子はいるのかい?」

「は?」

「いないんなら縁談も問題はないんだろうけど、そうでないなら……」

 高津は我知らず赤くなった。

「あ、あの、は、その……」

 すると長谷川が、様子を察したのか頷く。

「だったら、頑張れ」

「え!」

「惚れた女の子がいるのなら、それが一番の武器になる」

 脈があるなら励ましの言葉なのだろうが、今のところは何の慰めにもならない。

 それでも高津は長谷川に感謝した。

「ほんとにこのきんとん、美味しい!」

 萌が知ってか知らずか、見当違いの言葉を放つ。

「うん」

 高津も一口口にしてから同意した。

 甘過ぎもせず、食感もほどよい。

 しばらく三人は菓子をはじめとした四方山話で盛り上がった。

 そうして、そろそろ頃合いだと感じはじめたとき、

「そうか、君は今、大阪に住んでるんだね」

 ふっと長谷川がつぶやく。

「大学があっちなんで」

 すると長谷川はどうしてか寂しそうな顔をした。

「この町に、帰ってくるつもりはある?」

「まだわかりません」

 失恋したら帰っては来れまい。

 しかし、成就するのならきっと……

 高津は微笑んだ。

「あの、またお邪魔してもいいですか?」

 長谷川はにっこり笑った。

「もちろん、いつでも来てくれ。私には何の力もないけれど、話し相手ぐらいにはなれると思うよ」

 思わず相手を凝視する。

(……この人は)

 始めに感じた通り、リソカリトではないかもしれない。

 だが、知恵や知識、そして優しさが時として深い洞察力に変わることを、高津は知っていた。

「ありがとうございます」

 本当に深々と高津は頭を下げた。


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