長谷川3
「悪いけど、俺、用事あるから」
「どこに行くの?」
「島津さんには関係ないとこだよ」
島津はうっとりとした表情で高津を見つめる。
「そんな意地悪言うんだったら、ついていっちゃうぞ」
高津は困って萌を見たが、萌はまだ固まったままだ。
「じゃ、さよなら」
バスが止まり、ドアが開いたので高津はさっさと乗り込んだ。
「あたしも行くっ!」
島津の声に、ぎょっとした高津が振り向くと、タラップで伊東が立ち止まって彼女を制した。
「ごめん、俺たち二人、萌の家に呼ばれてるんだ。またな」
驚きに目を見開いた島津を残し、バスは発車した。
「おい」
高津は伊東を睨む。
「何でお前、乗ってんだよ」
悪びれない笑顔がこちらを向く。
「まさかと思うけど、俺に島津さんと一緒にバス停に残れと?」
確かにそれは酷だと思う。だが、
「萌の家だなんて、何で言ったんだ?」
島津のことだ、男二人を家に連れ込んだなどと中傷しかねない。
「確実に追い払うための呪文がそれしか思い浮かばなかったんだ」
「萌が明日予備校で何言われるか考えてみろよ」
すると、今まで呆然としていた萌が、ようやく口を開いた。
「あ、あたしは何言われても全然平気。それより伊東君があそこに残らなくて良かった」
高津は口を開きかけてまた閉じた。
どうしてか胸が痛む。
「高津は長谷川さん知ってるの?」
「いや」
「じゃ、どうして?」
「……プライベート」
「ふうん」
面白そうな顔をして伊東は萌を見た。
「明後日さ、店に村山さんが夜に奥さんと来るよ。予約が入った」
「え!」
萌よりも高津が驚いた。
「来るって、店に?」
「まあ、常連さんだから」
萌を見ると、顔を赤くして黙り込んでいる。
仕方なしに高津は会話を続けた。
「で、お前、どこまでついてくるつもり?」
「さあ、どうしようかな」
「ついてくるなよ」
伊東は頷く。
「わかってる。プライベートな相談なんだろ」
素直に言われると、突然申し訳ないような気持ちもわいてくる。
少なくとも彼は島津から高津を守ってくれた訳ではあるし。
「悪いな」
伊東は微笑んだ。
「せっかくだからついでに病院……見舞いでも行ってくるよ」
萌がようやく顔を上げた。
「よろしく言っておいてね」
[OK」
しばらく沈黙が続き、やがてバスは萌の家の近所で停まる。
「じゃ」
「ああ、またな」
萌と高津は伊東に手を挙げ、二人で降りた。
そうしてそのまま歩き出す。
神社は知っていたが、長谷川の家は知らなかったので、ただただ萌についていく。
「ごめんください」
やがて、一戸建ての家の前で萌は立ち止まり、インターホンに声をかけた。
すぐに戸が開いて、人の良さそうな中年の男がでてくる。
(……すごく、青い)
リソカリトではないかもしれないが、彼らにかなり好意的なオーラがあった。




