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まどろみ  作者: 中島 遼
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長谷川2

「ね、長谷川さんも俺、初対面だから一旦駅前に戻ってもいいか?」

「いいよ、大して時間、かわんないし」

 バスに乗り、再び高津は駅デパで種なし巨峰を買う。

 そうして再びバス停へと向かう最中に、良く知った気配の存在を彼は感じた。

「萌、高津!」

 声がしてからゆっくりと振り向くと、伊東が驚いた顔で立っていた。

「お前、帰ってたの?」

 少し優越感に浸りながら高津は頷く。

「ああ」

「今からどこに?」

 バス停の行き先を見ながら伊東が問う。

「ちょっとね」

 この停留所は萌への家に行くバスが来る。

 そんな風に勘違いしてくれたらいいな、と高津が思った時、

「長谷川さんとこ」

 あっと思うまもなく、萌がさらっと行き先を言った。

「え?」

 怪訝な顔で伊東が二人を見る。

「何で長谷川さん?」

「話せば長いんだけど、長谷川さんに聞きたいことがあって」

「あ、俺、今日は暇だから、長い話は大歓迎だぜ」

「そう?」

 こんな話を萌が伊東にどう説明するのかという困惑より、ただただ邪魔な男が視野に入ったというだけの感情で高津は首を振る。

「また今度な」

 伊東が微かに笑った。

「用事があるのはお前?」

「そうだけど」

「なら、やっぱ俺もついて行こう」

「ええっ!」

 あからさまに嫌な顔をした高津に、伊東は持っていたバッグを肩にかけた。

「だって、面白そうじゃん」

 俺は面白くない、と心の声が叫ぶ。

「プライベートの相談だから、同席してほしくない」

 だが怖い顔の高津を見ても、伊東は何も感じないようだ。

「まあ、そういうなって」

 伊東はどちらかと言えば場の空気を読む方だったが、今日はどうしてかしつこい。

 高津は困って隣に助け船を求めたが、萌は成り行きを見守る風情でふんわり立っている。

(……だめだ)

 仕方なく高津が伊東に強い言葉を浴びせかけようとしたとき、微かに伊東の表情が変わった。

 その目線は高津の後ろにある。

(……げっ)

 振り向かなくてもそれが誰だかわかった。

 そしてその存在も、こっちに気づいたようで走って近づいてきた。

「高津くーん!」

 久しぶりに聞いた島津の声。

 それは今も甘ったるい。

「え、なに? こっちに帰ってたの?」

「あ、ああ」

「それだったら連絡くれればいいのに。ね、いつまでいるの?」

 仕方なしに高津は言葉を発する。

「今日には帰るよ」

「だったら私と一緒にどっか行かない?」

 島津はようやく他の二人に目を向けた。

「つきあってる二人と一緒に絡むなんて、つまんないでしょ?」

「え?」

 愕然とした高津の前で、萌が何も言わずにぽかんと口を開けた。

「ねえ、伊東君?」

 すると伊東が不機嫌そうにふいっと島津から顔を背ける。

「いい加減なこと言いふらすなよ」

「あら、いい加減なことじゃないわよ。夜遅くに二人で密着して歩いているのをよく見かけるってうちの予備校でも有名だし、なんてったって仲むつまじいし、ね?」

 言われるまでもなく高津も知っていた。

 夜遅くに二人が仲良く歩いていることを。

(つきあってもなく、密着してもいないけど、確実に二人は近づいている)

「萌も相変わらずね、男の子二人を手玉に取るなんて。でも、相手の気持ちもちょっとは考えないと駄目よ」

 萌は否定も肯定もせず、呆然とした顔で突っ立っている。

 伊東は少し怒っているようで、眉間が狭い。

「だからさ、二人は二人の世界で楽しませてあげよ? 私、高津君には一杯話したいこともあるし、ちょうど良かった。一緒にお茶しましょうよ」

 島津の言葉が終わらないうちに、バスがこちらに向かってきた。


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