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まどろみ  作者: 中島 遼
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長谷川1

 これほどの恐怖を味わったのは、萌や夕貴と戦ったゲームの終盤、ラスボスに出会った時以来だろう。

(……眼)

 数え切れないほどの眼が、高津と萌をじっと観察していた。

 あるいは観察しているような気がした。

「ねえ、どうしたの?」

 全然動じていない萌が高津の顔を覗き込む。

 とりあえず門から一歩出てから、高津は萌の腕を放した。

「圭ちゃんらしくないよ?」

 額から流れる汗をぬぐう。

 それは背中にも太ももにも同じようにだらだらと落ちていた。

「長谷川さんに会わせて」

「え?」

 萌は呆然と高津を見た。

「どうして?」

「聴きたいことが色々ある」

 椎名は長谷川のことを知っていた。

 だとすれば、長谷川もまた椎名が何者かを知っていることだろう。

「いいけど?」

 不思議そうな顔に首を振る。

「話は後でする。今は……ここでは……」

 言いかけて、高津はぎょっとして後ろを振り返った。

 二十メートルほど離れた場所から中年の女がこちらに向かって歩いてくる。

 普段なら気がついていただろうに、家に集中しすぎて背中がおろそかになっていた。

「貴方たち、今、お屋敷から出てこなかった?」

 近づいてきた女が怪訝そうに問う。

「はい」

 萌が明るく頷いた。

「こちらでお茶をしていて……」

「え?」

 女は目を丸くした。

「旦那様と?」

 高津は慌てて萌を肘で突く。

「いえ、そのつもりで来たんですが、留守だったんで」

 既に屋敷に老人の気配はない。

「そうでしょうね」

 どうしてかほっとしたように女は頷いた。

「旅行に行くって言ったっきり、いなくなっちゃったんですもの」

 彼女はため息をついた。

「前の引き継ぎでも言われてたのよ、ここの旦那様は時々断りもなく、どこぞへ旅行に行って、ある日ひょっこり帰ってくるって。それでそのときに畳に塵でも積もってようなら、凄く怒られるって」

 ため息が深くなった。

「でも、せめてどこに行くかぐらい、言ってくれてもいいのに。親戚の人たちから、私、怒鳴られたのよ。女中なら女中らしく、ご主人の予定ぐらいちゃんとつかんどけって」

 そうして彼女は高津と萌を見た。

「どうかご両親にそう言ってくださいな。私が悪いんじゃなくて、ご主人が勝手なんだって」

 どうやら一族の人間と勘違いされているようだ。

「こちらにお務めになってから、長いんですか?」

 念のために高津が聞くと、女は首を振った。

「まだ一年にもならないわ。前の人が首になって、その代わりだから」

「やっぱり変わり者?」

 女は少し警戒するように高津を見た。

「いえ、変わり者ということはありません。旦那様は良くはしてくださるし。ただ、時々怖いんです」

「なぜ?」

「気配もなく、気がつけば横に座っていたりとか、不思議なことが多くて」

 高津が頷いた。

「それ、わかる。俺もずっとそう思ってたから」

「あ、でもそのようなことを告げ口なさらないでくださいね。昨今、こんないい待遇でお務めさせて下さるおうちも珍しいので……」

 高津はさらにいくつか聞いたが、女がそれ以上悪口を言わないことがわかったので、彼は頷いた。

「じゃ、家のことはよろしくお願いします」

「はい、お任せ下さいね」

 屋敷に女が入っていくのを見送り、高津は歩き出した。

「家政婦さん、あのおじいさんとばったり会って驚くでしょうね」

「大丈夫、もう屋敷に気配はないから」

 言いつつ高津は考え込む。

(……椎名家には、俺たちぐらいの年頃の子供がいる)

 それは記憶に留めるべき有益情報だ。

 それと、

「ね、長谷川さんに会えそう?」

 再度請求すると、萌はようやく携帯電話を取りだして先方に電話を入れてくれた。

「大丈夫。家にいるよ。今から行ってもいいって」

「ありがとう」

 そこからバス停まで歩き、時刻を確認する。


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