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まどろみ  作者: 中島 遼
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北の椎名5

 高津がすぐには立ち直れそうにないと見て、仕方なく萌が彼の代弁をする。

「高津君は長男一人っ子なので養子は無理です」

「無理なことなどない。天が決めたことなのだから、いずれそうなる」

「じ、じ、冗談じゃない」

 ようやく高津がかすれた声を出した。

「誰が麻薬をばらまくような男の養子になんかなるもんか」

「姫を守るためだと聞けば、君もそれは必要な事だと思うはずだ」

「姫を守る?」

 高津が肩をすくめた。

「そんな大昔の人間の何を守るって?」

「姫は時が満ちればよみがえる。その徴候は既にある」

「……はあ?」

「不完全な形ではあるが、姫は既にこの世に在るのだよ」

 お伽噺を集めるために、色々なお年寄りの所に行ったことのある川上や伊東から色んな話を聞いている萌には、この芝居がかった老人の話が面白く思えたが、高津はそうではなかったようだ。

 彼は突然立ち上がった。

「とりあえず帰ります。貴方、病院行った方がいいですよ。多分、薬のやり過ぎで妄想癖が出てるから」

「ちょっと圭ちゃん、まだ用件終わってないし」

 慌てて萌はそのシャツを引っ張る。

「そもそも話を聞きに来たのはあたしたちなのに、なんでそんなケチつけるようなことを」

「話にケチなんてつけてない。誇大妄想も甚だしいって言ってるだけさ」

 高津の機嫌がかなり悪い。

(そりゃ、いきなり養子とか言われたらびっくりするだろうけど)

 これが伊東なら、笑いながら老人に話を合わして聞きたいことを聞くだろうに。

「でも、リソカ……離人成神人の事を調べてると、そういう伝承もあるのよ」

 以前、川上のノートで読んだし、長谷川からも聞いた。

「姫を蘇らせるため、定期的に贄が探され殺されたとか。で、その贄がリソカリトって呼ばれてたのよ」

「逆じゃ」

 老人が突っ込んできた。

「離人成神人を贄にした、が正解じゃ」

「自ら進んで成った人、ね」

 相手は萌を見て少し笑った。

「君も世が世なら、極めて優秀な贄になったろう」

「優秀な贄?」

「姫を蘇らせるための、な」

 突然、高津が萌の腕を引っ張った。

 腕が抜けると困るので、萌は仕方なく力に合わせて立ち上がる。

「帰ります。戯言はもういい」

「ちょっと」

 萌はまた慌てた。

「まだ、話終わってないし」

「何の話?」

「姫の話よ。蘇った姫はどこにいるのとか」

「それはわしにもわからない。だが」

 老人は本当に嬉しそうな顔をした。

「不完全で在るということは、ひょっとしたらまた贄が必要になるかもしれん。そのとき君は、その最高の血を提供してくれるかね?」

「そうね、四百ミリリットルぐらいなら……」

 しかし、萌がまだ話をしているというのに、高津が強い力で引っ張り、そうして座敷を出ようとした。

 抵抗しようかとも思ったが、本当に血相が変わっているので萌は諦めて老人に首だけで礼をする。

「また、お伺いします」

「二度と来るかっ、こんなところ!」

 高津は老人を見据えた。

「萌にも俺にも近づくな。絶対にだ!」

「約束はできんな」

 老人は上品に茶をすすった。

「多分、近い将来、また会うことだろう。それが運命である以上は」

 今度こそ高津は大股で廊下に出た。

 そして萌を引きずるようにして屋敷を出る。

(……仕方ない)

 今度は伊東と来ようと萌は思った。


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