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まどろみ  作者: 中島 遼
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北の椎名4

「お嬢さんは宮司と知り合い?」

「神尾です」

 思えば自己紹介すらしていなかったことに今気づく。

「それでもって、長谷川さんはあたしの習字の先生です」

「ああ、なるほど」

 老人は頷いた。

「それで、神尾さんも離人成神人?」

 一瞬どうしようかと迷ったが、隠しても仕方がないので萌は頷く。

「はい、多分」

「どんな力?」

「それは秘密です」

 じろじろと見られたので、萌は横隔膜を下げ、気息を整えた。

 隙を見せてはいけないと本能が教える。

「……なるほど」

 しばらく観察した後で老人は呟いた。

「これは相当な武闘派だな」

「え?」

「麻薬中毒になったという友達は、君の前では従順だったろう? いつまでも君の側にいたいと言わなかったか?」

 今度は萌が驚いた。

「何故それを?」

 老人は頷いた。

「いや、なに、鎌をかけただけじゃ」

「え!」

「離人成神人には二種類ある。一つはこの男の子のような血を守る者。もう一つは、神尾さんのように血を残す者」

 意味がわからず首をかしげると、老人はまた頷いた。

「薬を飲んだ者が側に居たがったなら、君は相当血が濃いな」

「血が濃い?」

「姫の血じゃよ」

 ざわっと心がざわめき、萌は思わず腰を浮かしそうになった。

「あたしが?」

「左様」

「姫と血がつながってるの?」

「宮司から聞かなかったか? この町の人間はほとんど姫の子孫だと」

 確かにそう聞いた。だが、自分もそうだとは信じがたい。

「そうだったら嬉しいなとは思ってたけど、でも、あたしは他の人とはちょっと違う感じだったから」

「他にも離人成神人に会ったのか?」

 しまったと思ったがもう遅かった。

 慌てたように高津がフォローする。

「あくまで夢の話で、現実ではありません」

「なるほど、他人を夢に引き入れる程の力の持ち主が、君たちの側にいるわけか」

 押し黙った高津に老人は微笑む。

「夢であれうつつであれ、神尾さんが他の者と違う感じだったなら、ますます血が濃いのじゃろうな。離人成神人にもいろいろあるが、滅多にない力ほど源流に近いと言われている。以心伝心や予知などは割によく見られる力だが、君はそうではなかろう。むしろ、手を使わずに石を投げたりするタイプに見える」

 高津が跳び上がりかけたのを見て、老人は微笑んだ。

「やはりそうか。なら、狐に気をつけるがいい」

「狐?」

「姫の血を好む輩じゃ。姫の血を残す者を見境なく襲って食う」

「……は?」

 荒唐無稽な話には慣れていたが、それでも萌は聞き返した。

「意味がわからないんですけど」

「この町に住んでいれば、いずれ出会う。わしが言えるのは狐に出会ったらとにかく逃げろと言うことだけじゃ」

「と言われても、それだけでは何だかよくわからないんですが?」

 老人は首を振った。

「この話はここまでじゃ」

 高津が萌を見て、それから少し息をついた。

「今の話を総合すると、萌は姫の血が濃くて俺は薄い、それでいいですね?」

「君が薄いと誰が言った?」

「いや、どこにでもある力だと思って」

「姫の血については諸説あるが、単純に先祖返りして血が濃い者は別として、多くはその血に気づくことなく死んでいく。気づいたものも、使いこなすことができずに死んでいく。そしてごく一部の者だけがその血を制御するセンスを持つ。それが守る者だ」

 老人は口の端を上げた。

「わしとほぼ同じ技をその年で会得するというのは異能中の異能。鋭敏な感性と血の濃さ、そして天性のセンスがある」

 何だかわからないが、高津が誉められたので萌は嬉しくて何度も頷く。

「すごいね、圭ちゃん」

 しかし、高津は怖い顔を崩さなかった。

「俺が瞬間移動できるとでも?」

「倉庫で、このお嬢さんを連れてそしてまた出て行ったのをわしは見ておったよ。いやはやたまげたものだ。普通、人を連れて瞬間移動などできない。それほどの力の持ち主を見ることができるとは、やはり天の配剤」

「……は?」

「北の椎名は常に守る者の宗家。わしの代で滅びるかと思っておったが、継ぐ者がやはり現れるようにできている」

「……は?」

 高津が二度、間抜けにも聞こえるような声を出した。

「お前をわしの養子にする」

 今度は高津は声を出さなかった。

 代わりに口をぱくぱくさせて首を横に振った。

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