北の椎名2
天気はいい。
家の向かいには刈り取りの終わった田が広がっている。既にひこばえが伸び、田は陸稲を植えたかのようだ。
他にも農家らしい家はぽつぽつと見えるが、それらは全て門も生け垣もなく、平屋が周りから見渡せた。
「あの暴力団の人たち、どうなったかな?」
萌が言うと、高津は肩をすくめた。
「入院しているか、この家を焼き討ちする計画を立てているかどっちかだよ」
「……そう言えば、煙吸う前に逃げろって、あのおじいさん言ってたよね」
「うん」
「どうしてかな」
「煙に成分が含まれるから、吸うと中毒になる。多分、そういう事だと思う」
それぐらいは萌もわかっていた。そうではなくて聞きたいことは、
「それをあたしたちに向かって言ったのは何故?」
高津は微かに眉をよせた。
「順当に考えると、俺たちを助けようとしたってことになる」
老人は萌たちがあそこに隠れているのを知っていたようだ、と高津は言う。
そして、瞬間移動したと。
「同じリソカリトだから?」
「わからない」
それも、高津と同種類の、と言いかけて萌は黙る。
彼はそのことをずっと気に病んでいた。
「まあ、おじいさんに会ったらわかることよね」
「うん」
高津は言葉少ない。
「何だか元気ないね」
「そりゃ、緊張してるから」
「え!」
萌は驚いた。
「圭ちゃんが?」
「……悪い?」
「そうじゃないけど、珍しいと思って」
「萌とは違うんだよ」
最近、萌にも少しわかったことがある。
高津と萌の緊張する場面は全く違う。
萌はこれからも長くおつきあいをしなければならない(かもしれない)初対面の人と話をするときに緊張する。
高津はそういうのには動じない。
逆に、萌が何とも思わないような一期一会な場合に緊張を見せる事があった。
(おもしろいな、そういうの……)
と、そのとき、高津が突然立ち上がって後ろを振り向く。
「?」
萌も慌てて彼と同じ方向、つまり門を見ると、それは左右にきいっという音を起てて開いた。
「いらっしゃい」
門の向こうには老人が立っている。
「お待たせして悪かったね。お入り」
高津を見ると、口を引き締めたまま軽く頭を下げたので、萌もそれに倣った。
そうして老人の後に続いて家の中に入る。
(……やっぱりリソカリトだ)
さっき、高津は留守だと言った。
ということは、家の中には気配はなかったということだ。
(そもそも、門の側に来るまで圭ちゃんが気づかないはずがないし)
廊下を渡りながら、萌は老人を観察した。
息の乱れはない。
高津の場合は、一度テレポテーションをすると目に見えて集中力や体力が低下するというのに。
「失礼します」
通された座敷には、既に日本茶と茶菓子が用意されていた。
二人はとりあえず、来客用の座布団の敷かれた上座に並んで座る。
「あの、つまらないものですが」
萌がブドウを渡すと、老人は嬉しそうな顔をして受け取った。
「いや、気を遣わせて申し訳ない。でも嬉しいよ。ブドウは好物でな」
「それは良かったです」
萌の気勢は完全に削がれた。
場合によっては相手の腕の一本も折る気でいたのだが。
「さてと、早速じゃが、ご来訪の意をお聞かせ頂こうか」
萌が高津を見ると、当然のように高津は軽く頷く。
こういう場合の交渉は、暗黙の了解で賢い彼が行うことになっていた。
「何故、麻薬なんかに手を出されてるのですか?」
すると老人は驚いた顔をした。
「そこ?」
「え?」
老人は破顔する。
「てっきり、違う話に興味を持ってるのかと思ったので、少し驚いてな」
高津は眉根を寄せた。




