倉庫1
待ち合わせの時間になり、萌が現れた。
彼女は一旦予備校から帰り、疲れたから早く寝る、とか何とか言って部屋に籠もり、その後こっそり家を抜け出したのだと言う。
最近は萌の親も警戒が強く、夜に簡単に家の外に出してはもらえないようだ。
ただし、萌曰く、妹は高津の名を出すと案外簡単に協力してくれるとの話だった。
萌が高津の事を妹に紳士的だと話してくれているのがわかってちょっと嬉しい……
「どっちの倉庫かわかった?」
「多分」
高津は電車でこちらに来ており、夕方ぐらいから中町辺りを人に見つからない程度にうろうろしている。
「南側の方の倉庫に、チンピラみたいなのが一人ずっと立ってる。そして倉庫の中には人が一杯。そこが怪しいな」
「忍び込めそう?」
「シャッターは降りてるから、テレポテーションしかないかな」
「人にばったり会わない?」
「何とかなると思う」
それより心配なのは、万が一、違う方の倉庫だったらと言うことだ。
その場合は全てがご破算になる。
「俺が戦力どころかお荷物になっちゃうからね」
「でも、可能性は薄いんでしょう?」
萌はにっこり笑った。
「じゃあ、こっちでいいと思う。圭ちゃんの言うことに間違いはないわ」
知ってか知らずか、萌は高津が舞い上がり落ち込むような言葉を吐いた。
「でも、テレポーテーションの回数はできるだけ温存しておいた方がいいのよね」
「それができればいいんだけど」
一番いいのは、見極めが確実になってから一発目の移動をする事だ。
「だけど、そうした場合には、おろおろしている間に中に入れなくなっちゃって、取引の全容がつかめないって可能性がある」
「誰が黒幕かも全然わかんないしね」
二人は顔を見合わせた。
「仕方ないから、入ろうか」
「うん」
今日はシャッターが閉まっているので、入り口は南東にあるドアのみとなる。
そこを一瞥したあと、萌は高津を見上げた。
「……中に一杯人がいるのよね」
「うん」
「見つからない場所とか、外からでもわかるの?」
高津は頷いた。
「シャッターが開いている時を狙って、ここには何度も来て下見してるから」
製品は南北に三列並べられていた。
中にいる十人ぐらいの男達は、西側奥のパレットの後ろ側に潜んでいる。
そこから中央に向かって二列製品が屋根近くまで積まれており、さらに通路二つ分ほどの空間をおいて、北東の端には五メートル四方の事務室がある。
「その、事務室の南側のパレットラックに、使用済みの段ボールが一杯積まれてるんだけど、その陰に隠れようと思ってるんだ」
高津が位置関係を萌に説明すると、彼女は頷いた。
「その事務所と製品の間の空間、ってとこが今日のイベント会場なのね」
「多分。事務所の前に二人の人間の気配がある」
それが恐らくタクマと呼ばれた男とその上司なのだろう。
そこから真っ直ぐ南側が入り口のドアなので、来客はやはりそこから入ってくるのだ。
「携帯、マナーモードでいいかな?」
「電源を落としておいた方が安全だと思う」
萌は電話のボタンを長押しすると、次にそっと高津の手を握る。
動悸が激しくなるのを抑え、高津は集中した。
そうしてテレポート。
いつものような浮遊感の後、湿った感じの段ボールの感触を腕に感じる。
倉庫は薄暗くはあったが、灯りはついていた。
うまくばれないように到着したようだったが、高津と萌は少しずつ身体をずらして、入り口側となる南、そしてタクマ達の視野には絶対入らないと思われる方向に移動する。
そして息を潜めてしばらく待つ。
高津は腕時計を見た。
遠い外灯の明かりを反射して、蛍光塗料が緑に光る。
(……十一時五分前)
そろそろ人が来てもいいはずの時刻だが。
(まさか読み違えはしてないよな)
何度か胸に問いかけるが、そんな予感はなかった。
(……大丈夫だよな)
心配性の自分にいらだちながら、もう一度高津が時計に目をやったときだった。
(!)
不意に遠くから人が倉庫に向かってやってくる気配に彼は気づいた。
(……二人、か)
その二人はゆったりとした足取りでこちらに向かっている。
(……結構遠いよな)
ここまでその速度だったら数分かかることだろう。
(さっさとしろ、遅刻だぞ)
高津が思ってしばらくすると、その気配は道を曲がって遠ざかっていった。
どうやら全然関係のない人だったようだ。
(じゃ、取引相手はこっちに全然向かってないってこと?)
大人のくせに時間を守らないとかありえない。
(これだから日本は駄目になるんだ)
だが、高津が心の中で悪態をついたそのときだった。




