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まどろみ  作者: 中島 遼
72/89

見舞3

(……疲れた)

 人を好きになったり好きじゃなくなったりするのが、いとも簡単であることが少し羨ましい。

(だけど、それってどうなんだろ)

 人格に柱がないような気がして少し哀れにも思う。

(……さてと)

 これからどうするかについて、萌は少し思い悩んだ。

(薬の犠牲者は一人じゃない)

 これからもどんどん増えることだろう。

(何とかしないと大変なことになる)

 萌はバスの中で考え込んだ。

(中町の倉庫がどうとか、あのやくざは言ってた)

 木鳥に酷い事をしたタクマという男が荷物運びをする。

(三十日の夜十一時だっけ?)

 日付は覚えていたが、時間は少し曖昧だ。

(そんなに余裕はないなあ)

 この件は高津と一緒に動く方がいいだろう。

 萌は方向音痴だし、高津ほど頭が回らない。

(……あのプロレスマスクももう一度借りなきゃいけないし)

 そうと決まれば話は早い。

 萌は帰宅後夕食もそこそこに高津に電話をした。

「……という訳なの」

「わかった、じゃあ、会って作戦を練ろう」

「え!」

 萌は即答に驚いた。

「今日の所は打ち合わせの日付と時間を予約するだけでもいいよ」

「もう日がない、早く考えないと駄目だ」

「……そ、そう?」

 やくざに関わるのはどうとか、力がばれたらどうするとか、そういう批判をどう回避しようかと思っていたのだが、今日の高津はどうしてか積極的だ。

「今から行っていい?」

「もうすぐ妙が上がってくるから無理」

「そっか」

 やや残念そうな声を不思議に思いながら、萌は初期の課題に戻る。

「その倉庫で麻薬だか覚醒剤だかの取引が行われる、ってとこはいいわよね? それが木鳥さんに使われたってことも」

「うん」

「問題はその倉庫がどこかってことだけど」

「俺、下見したんだけど、それらしいのは二つある。でも、恐らくその時間に人の気配が多い方を選べばビンゴすると思うよ」

「さすが!」

 本気で萌は感心した。

「で、作戦は?」

「俺たちの目的が何かってことだよな」

「目的?」

「そう、薬を取り上げて燃やしてしまうのが目的か、犯人を捕まえて警察に引き渡すのが目的か」

「でも、見つかっても絶対警察に捕まらないって言ってなかった?」

「うん、多分法を抜けられるような新種の薬なんだろうな」

 高津も同じ事を考えていたようだ。

「だとしたら、悪いことできないように燃やす、っていうのがいいのかな」

「あるいは、黒幕が誰かを探って、そいつが二度とヤクザに薬を供給できないようにする」

 萌は頷いた。

「それが一番いいよ」

「ただ問題が一つある。ヤクザ達もどうやらトライしたらしいこと言ってなかった?」

「……って?」

「隙を見て、流通ルートを抑えるまでは、なんか言うことを聞いておこう的な感じだったろ?」

「うん」

 聞いたような気がする。

「それからすると、サプライヤーの後をつけるとかそういうことは、彼らは試し済みなんじゃないかって思って」

「それなら心配ないよ。圭ちゃんは絶対に相手を見失わないから」

 普通の人間と違い、高津は遠くにいてもある程度、求める相手がどこにいるかを感じることができる。

「青いと面倒なんだよな。赤ければかなり遠くに行ってもわかるんだけど」

「青いはずないじゃない、相手は悪者よ!」

「……まあ、ね」

 高津はもごもごと何かを言いながら、ふと思い出したように口調を変えた。

「あと、謎はもう一つ」

「まだあるの?」

「何でこの町限定なんだと思う?」

 萌は首をかしげた。

「数が少なくて、全国から問い合わせが来た時に困るから?」

「あるいは新聞やネットで噂になったりしたら困るから?」

 二人は考え込んだが、理由についてはわからない。

「とりあえずは当日、引き渡し現場で話をこっそり聞いて、皆が帰ったら火をつけて燃やそう」

「了解」

 やっぱり高津は萌以上に色々考えている。

(……電話して良かった)

 その夜、萌は安らかな眠りについた。


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