見舞3
(……疲れた)
人を好きになったり好きじゃなくなったりするのが、いとも簡単であることが少し羨ましい。
(だけど、それってどうなんだろ)
人格に柱がないような気がして少し哀れにも思う。
(……さてと)
これからどうするかについて、萌は少し思い悩んだ。
(薬の犠牲者は一人じゃない)
これからもどんどん増えることだろう。
(何とかしないと大変なことになる)
萌はバスの中で考え込んだ。
(中町の倉庫がどうとか、あのやくざは言ってた)
木鳥に酷い事をしたタクマという男が荷物運びをする。
(三十日の夜十一時だっけ?)
日付は覚えていたが、時間は少し曖昧だ。
(そんなに余裕はないなあ)
この件は高津と一緒に動く方がいいだろう。
萌は方向音痴だし、高津ほど頭が回らない。
(……あのプロレスマスクももう一度借りなきゃいけないし)
そうと決まれば話は早い。
萌は帰宅後夕食もそこそこに高津に電話をした。
「……という訳なの」
「わかった、じゃあ、会って作戦を練ろう」
「え!」
萌は即答に驚いた。
「今日の所は打ち合わせの日付と時間を予約するだけでもいいよ」
「もう日がない、早く考えないと駄目だ」
「……そ、そう?」
やくざに関わるのはどうとか、力がばれたらどうするとか、そういう批判をどう回避しようかと思っていたのだが、今日の高津はどうしてか積極的だ。
「今から行っていい?」
「もうすぐ妙が上がってくるから無理」
「そっか」
やや残念そうな声を不思議に思いながら、萌は初期の課題に戻る。
「その倉庫で麻薬だか覚醒剤だかの取引が行われる、ってとこはいいわよね? それが木鳥さんに使われたってことも」
「うん」
「問題はその倉庫がどこかってことだけど」
「俺、下見したんだけど、それらしいのは二つある。でも、恐らくその時間に人の気配が多い方を選べばビンゴすると思うよ」
「さすが!」
本気で萌は感心した。
「で、作戦は?」
「俺たちの目的が何かってことだよな」
「目的?」
「そう、薬を取り上げて燃やしてしまうのが目的か、犯人を捕まえて警察に引き渡すのが目的か」
「でも、見つかっても絶対警察に捕まらないって言ってなかった?」
「うん、多分法を抜けられるような新種の薬なんだろうな」
高津も同じ事を考えていたようだ。
「だとしたら、悪いことできないように燃やす、っていうのがいいのかな」
「あるいは、黒幕が誰かを探って、そいつが二度とヤクザに薬を供給できないようにする」
萌は頷いた。
「それが一番いいよ」
「ただ問題が一つある。ヤクザ達もどうやらトライしたらしいこと言ってなかった?」
「……って?」
「隙を見て、流通ルートを抑えるまでは、なんか言うことを聞いておこう的な感じだったろ?」
「うん」
聞いたような気がする。
「それからすると、サプライヤーの後をつけるとかそういうことは、彼らは試し済みなんじゃないかって思って」
「それなら心配ないよ。圭ちゃんは絶対に相手を見失わないから」
普通の人間と違い、高津は遠くにいてもある程度、求める相手がどこにいるかを感じることができる。
「青いと面倒なんだよな。赤ければかなり遠くに行ってもわかるんだけど」
「青いはずないじゃない、相手は悪者よ!」
「……まあ、ね」
高津はもごもごと何かを言いながら、ふと思い出したように口調を変えた。
「あと、謎はもう一つ」
「まだあるの?」
「何でこの町限定なんだと思う?」
萌は首をかしげた。
「数が少なくて、全国から問い合わせが来た時に困るから?」
「あるいは新聞やネットで噂になったりしたら困るから?」
二人は考え込んだが、理由についてはわからない。
「とりあえずは当日、引き渡し現場で話をこっそり聞いて、皆が帰ったら火をつけて燃やそう」
「了解」
やっぱり高津は萌以上に色々考えている。
(……電話して良かった)
その夜、萌は安らかな眠りについた。




