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まどろみ  作者: 中島 遼
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電話1

 テレビ局でメディアを回収した次の日の夕方。

「どうして萌にケーブルテレビ局なんて言ったのさ?」

 彼の部屋にやってきた松並に、高津はベッドから身体を起こして開口一番そう言った。

「仲良しだなあ、もうそんな話まで聞いたのか。ま、だったら元気になったって言うことだな」

 松並は近所のスーパーで買ってきたらしい生春巻きと鶏の唐揚げを机に並べた。

「さ、飯だ。お前、今日はまだ何も食ってないだろ?」

 確かに何もする元気がなくて食べてはなかったが、最初の質問をスルーされたまま終わるつもりはない。

「ね、だからどうしてケーブルテレビ局って言ったのさ?」

「そんだけこだわるということは、やっぱり図星か?」

 松並は手で唐揚げを一個摘むと口に入れた。

「あのとき部屋にケーブルテレビ局宛の封筒が落ちてた。その日の消印でね。あれをこの部屋に持ち込むためには相当苦労しないといけないだろ?」

 そうして、押し黙った高津を見て笑う。

「普通に考えたら、郵便局で消印を押してから配送で到着したテレビ局宛の封筒を、神尾さんは受け取ってすぐに電車に乗ってお前のマンションにやってくる、という流れになる」

「……ま、ちょっと色々あったことはあったんだけど」

 もごもごと口ごもった高津を余所に、松並は勝手に冷蔵庫を開けてビールを取り出した。

 とは言え、ビール自体は松並からのもらい物なので文句は言えない。

「色々って?」

 こういう場合は誤魔化し通すしかない。

「うん、まあ、そういうことができるのかどうかとか、工学的な見地からの実証を……」

「工学的に瞬間移動?」

 もし、萌からあらかじめ松並の疑念を聞いていなければ、恐らく高津は何かしらのミスをしでかしたことだろう。

「何のことかな?」

 しれっとした顔で問うと、松並は生春巻きに辛子をつけて微笑む。

「そういう反応をするということは、結構マジでその可能性が高いと考えた方がいいんだろうな」

「え!」

「どうせ神尾さんからあらかじめ聞いていたんだろ、それなのに否定ではなくて問い直しというのは怪しい」

 食えない男だ。

「それにしても神尾さんは大したもんだ。突然の振りにお前ならべらべら吐くところ、押し黙ってじっと正面を見つめてたよ、あれは凄いな」

「ふん」

 高津はベッドから出た。

 そうして、冷蔵庫からミネラルウォーターを出して飲む。

「ま、でも、まずはお前に済まなかったと言っておこう」

「何が?」

「うまくいけば、キスの一つもできるシチュエーションだったのに」

「は?」

「まさにベッドインだったもんな」

「ば、ば、馬鹿なこと言わないでよ」

 真っ赤になって高津は手を上下させた。

「俺たちはそういうんじゃないの」

「覆面かぶって怪しい感じだったし、場面とか流れで何となくそういう事できちゃうもんだよ」

「だからあ」

「それとも、命からがら逃げてきて、そんな余裕はなかったか?」

「勝手に言ってろ」

 高津はちゃぶ台に持っていたペットボトルとコップを置いた。

 そして、ベッドに寄りかかれる位置に座る。

 松並に怪しまれてもさほどの実害はないと高津は見ている。むしろ、

(……あの町で行われているドラッグの売買)

 萌はあまり話さなかったが、何となく気にしている風が見て取れた。

 正義感の強い彼女のことだ、一人でやくざ相手に立ち回りしないとも限らない。

(……俺も少し調べてみよう)

 まずは中町の倉庫だ。

(……緑の方、って言うからには同じ権利者の建物が二つあって、その緑の方ってことかな)

 あるいは、中町に倉庫は二つしかないのかもしれない。

 それについては、体力が回復し次第、夜中にでもあの町に戻って確かめればいい。

 高津は適当に話を振って松並の追求をかわしながら、とりあえずは体力回復のために唐揚げを食べた。


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