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まどろみ  作者: 中島 遼
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名古屋4

(……どうするんだろ)

 思っていると、伊東はそのままタクシー乗り場に行って二人を後部座席に座らせた。

「総合病院まで」

 乗り込んでいた木鳥も驚いたろうが、萌も跳び上がった。

「え、なんで、どうして?」

 萌の気持ちを代弁するかのように木鳥が問う。

「木鳥さん、家に帰りたくないんだろ?」

「うん、そうだけど」

「でも、薬は欲しいんだよね」

 途端、木鳥は大きくうなずく。

「欲しい。本当に欲しい」

「俺の知ってるお医者さんが相談に乗ってくれる」

「えっ?」

「本当に?」

 萌と同時に木鳥は叫び、そして萌を見る。

「あの、神尾さんも今、そんな話を始めて聞いた訳?」

「うん」

 仕方なく萌は素直に頷く。

「伊東君にお医者さんの知り合いがいるなんて思わなかったし」

 前の座席に座っていた伊東がこちらを斜交いに見る。

「外科の村山さん」

「ふえっ!」

 心臓が口から飛び出るほど驚き、そして萌は震える。

「あ、あの、あたしはちょっと」

「え、何? 怖い人なの?」

 木鳥は不審そうに萌を見る。

「怖くはないけど、その、あの……」

 しどろもどろの萌を、再び伊東が一瞥した。

「優しくて親切で頭が良くて金持ちで、びっくりするほどイケメンのお医者さんなんだ」

「そうなの?」

 萌は仕方なく頷く。

「じゃあ、むしろ会いたいじゃない?」

「き、き、緊張して駄目なの。大体、お薬をどうとかって、外科の仕事じゃないのにそんなの頼むの変だし」

「そういうのに詳しいお医者さんを紹介してくれるかもよ」

 木鳥は頭を振った。

「そんなの駄目。警察に……」

 言ってから木鳥はタクシードライバーをちらりと見た。

「だめよ。保険証もないし、うちに連絡されたらそれまでだから」

「……家には連絡しないように頼めると思う」

「でも、病院があんな薬を出してくれるはずないよ」

「あの男が言ってたけど、君の言ってる薬は、別に麻薬じゃなくて取り締まりの対象になっていないものなんだろ?」

「うん」

「そしたら、それがどういう種類の何という薬かを聞けば、普通に入手ができるはずだ」

 現実的には無理だろうと萌ですら思うような話なのに、木鳥はすがるように伊東を見た。

「本当に大丈夫かな」

「他に方法はない」

 萌は顔をしかめた。

 本当に他に方法はないのか。

(……あるとすれば)

 中町のどこかで行われるという取引。

 何となくだが、その薬のやりとりが行われるような気がする。

(……後で圭ちゃんに日にちと時間を聞こう)

 思ったとき、見慣れた病院の灯りが目に入った。

 そのままタクシーはエントランスに滑り込む。

「ありがとうございました」

 タクシーの運転手はかなりうさんくさそうな顔をしてはいたが、黙って伊東から金を受け取った。

「……本当に大丈夫かな」

「とりあえず、夜間救急。そこで村山さんを……」

 萌はぶるぶると首を振る。

「やっぱり駄目。救急は当番制だから、仮に村山さんがまだ病院で働いてたとしても、手術の後の患者さんの付き添いとか、具合の悪い人を診てるとか、そんな感じなの、だから……」

「……わかってる。言ってみただけ」

 歩きながら伊東は微かに不機嫌そうな表情を浮かべたが、それ以上は何も言わずに頷いた。

(……珍しく、怒ってるよ)

 それはそうだろう。

 萌が勝手に連れて帰ってきた友人の始末を、関係のない伊東に丸投げしているのだから。

「伊東君は頼りになるから、任せて大丈夫だからね」

 適当な事を言って、萌は待合室の隅へと移動した。

 そうして、受付で何かを話している伊東と、その横に佇む木鳥を見つめる。

(……まあ、病院は薬物中毒についてはプロだろうから)

 木鳥が望む展開にはならないだろうが、それでも悪い方向には行かないとは思う。

 仮に警察が動いたとしても、それは木鳥にとっては幸いだ。

 あの暴力団と縁が切れるし、中毒の治療も受けられる。

(騙した感じにはなるけど……)

 だが、予備校で最下層の萌よりも随分上にランクされていた木鳥が、そんなことをわからないでここにいるはずがない。

 これだけ従順に萌たちの言う通りにしているということは、自分でもこれでは駄目だと思ったからこそではないか。

(何とかなる、よね)

 萌は膝の上で両手を合わせた。


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