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まどろみ  作者: 中島 遼
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名古屋1

 萌は恵那に協力を仰ぎ、予備校をやめた木鳥真理子の消息をたどった。

 正直、話をしたこともない予備校の同級生にそんな話を聞きに行くのは度胸がいったが、恵那の方が興味津々で萌を引っ張り回したので何とか聞き込みは終了した。

「……そっか」

 数人から聞いた話では、三ヶ月前ぐらいから木鳥はやや美形レベルのヤンキー風男とつきあい始め、それから予備校を頻繁にサボるようになったという。

 そして無断外泊を何度も繰り返したあげく、勝手に家を飛び出した。

 名古屋で働いていることが知れたのは本当に偶然だ。

 予備校の男子生徒が野球観戦で名古屋に行き、帰りにちょっと遊び心で繁華街をうろついたところ、呼び込みをしている木鳥を見つけ、発覚したのだという。

「親には内緒にしてって頼まれたらしくて、知ってるのはこの予備校の子だけなんだって」

「いいのかな?」

「まあ、本人の希望だし」

 男子生徒から店の場所と名前を聞き出した萌は、川上の店でしばらくの間、日曜日にバイトをさせてもらう約束をとりつけた。もちろん電車代稼ぎだ。

 だが、

「今度は何を企んでるの?」

 日曜日の朝、テーブルを拭いていた萌に、勘のいい伊東が聞いてくる。

「え、別に」

 慌てて首を振ったが、伊東の追求は厳しい。

「随分とここに来るのがご無沙汰で、昨日の晩、ようやく来たと思ったらバイトさせて欲しいって? 萌のお母さんに聞いてみようかな、浪人なのにバイトってどうなの、ってさ。」

「いや、それは」

 川上が笑った。

「萌、櫂にねだれば買ってもらえるってことだよ、何が欲しいのか言ってみな」

「それは特になくて……」

「言わないと、バイトに雇わない」

 川上まで萌の敵に回ったので、致し方なく萌は口を開く。

「えっと、電車賃」

 伊東が目を細めた。

「新幹線代?」

「ううん、名古屋まで」

「何しに名古屋?」

 萌が黙ると川上が太い眉を上げる。

「……バイトに雇わないよ?」

 仕方なしに萌は問題のない範囲で事情を話す……話したつもりだった。

 だが、話し終わると川上と伊東の顔色が変わっていた。

「予備校の友達に会いに行くってのはわかったけど、場所が悪いよ」

「そうかな」

「呼び込みに立つってことは夜しか会えないわけだろ」

「まあ、そうなるね」

 川上が頷く。

「よし、櫂、お前つきあってやれ」

「えええっ!」

 驚いたのは萌だ。

「いや、でも、何の関係もないのにそんなこと伊東君に強いるなんてまずいと思うし、人としてどうかと……」

 誘うとすれば高津だと思っていたし、昨晩もその旨の連絡を試みたところだ。

 ただし、高津は珍しく電話に出なかったので、まだ頼んではいない。

「何の関係もなくはないし、萌に強いられた訳でもないよ」

 顔は笑っているが、どうしてか今日の伊東は怖い。

「俺は行くからね。絶対」

「……はあ」

 そういう訳で、萌は仕方なく伊東と同行して名古屋に行くことになった。

 この間、松並に送られて大阪から帰ってきたことで、母親の萌への監視は厳しくなっている。

 あの日、具合の悪くなった高津を心配して、萌がなりふり構わず大阪に行って看病し、最終に乗り遅れて途方に暮れていたところを松並に救われた、という話については概ね納得はしてもらっている。

 だが、だからと言って、母の怒りが冷めるわけでもない。

 ただ、高校の同級生達と気分転換のために野球を見に行く、ということに関しては、伊東が電話を入れて母を騙してくれたので、案外すんなりと事は運んだ。

 気分転換、っていうほど勉強してるの? という妹の鋭い指摘はあったものの……


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