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まどろみ  作者: 中島 遼
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真緒3

「真緒ったら」

 姉が呆れたような声を出した。

「おうちで走っちゃだめ。それにどうしてよそ行きの服を着てるの? おうちではおうちの格好があるでしょ?」

 よくはわからなかったが、今度もフリルのたくさんついたピンクのワンピースだったので、外出用なのだろう。

「お客様が来てる時は、お洒落しなさいってママ、言うでしょ?」

 村山は笑った。

「おやおや、俺はよそもの?」

「え?」

「仲良くない人の場合は、きちんとした格好をしないといけないけど、仲良しは普段着でいいんだよ」

 どうしてかシュンとした真緒に、姉は笑った。

「涼ちゃんもそう言ってるから、次はちゃんとするのよ。……じゃ、おやつの用意するからお手伝いして」

「はあいっ!」

 今度は元気な返事だった。

「姉さん、チョコレートで良かったらあるよ」

 姉はふと振り向いた。

「ということは、病院に行く途中だったんじゃないの?」

「あ、……でも患者さんがどうとかじゃなくて、サマリー書いたりとかそんなのだから」

「じゃあ、コーヒーぐらいは飲んでいけるわね」

「帰っちゃ駄目よ、今日は涼ちゃん、真緒と遊ぶの」

 少し怯えたような瞳で見つめられ、反射的に村山は頷く。

「うん、今日はそうしようかな」

「ほんと?」

「たまには息抜きしないとね」

 村山も台所に向かう。

「俺、コーヒー淹れるよ」

 エプロンを着けながら、真緒が首を振る。

「駄目よ、殿方は台所に入ってはいけません」

「うわっ、小さい千代さんがいる」

 おどけた村山に姉が笑った。

「いいじゃない、男の人でもお手伝いしてくれるんだったら」

「駄目です。ケジメはちゃんとつけなさい。パパも台所には入ったことないわよ」

 姉が微笑みながらコーヒー豆とミルを手渡したので、村山はキッチンに入らずダイニングの椅子に座って粉をひいた。

 挽き終わった頃を見計らって真緒が水の入ったデカンターとフィルターを村山に渡したので、コーヒーメーカーにセットする。

 彼は食器棚に飾られたコーヒーカップから、手頃なものを二つ選んだ。

 そして真緒用にジュースのコップを取り出したとき、

「……ん?」

 不意にポケットの携帯が鳴る。

 自宅の電話番号だ。

「もしもし」

「あ、涼ちゃん、良かった。今、どこにいるの?」

「ごめん、病院に行くって言ったけど、途中で気が変わって今、姉さんのとこにいるんだ」

「え」

 詩織は瞬時言葉を止め、そしてゆっくりと声を出した。

「きっちゃんから連絡があったの。お義兄さんの件で」

「え」

 村山は少し緊張しながら次の言葉を待つ。

「論文の件、お義兄さんのせいじゃなくって、大学の誰かの仕業らしいって」

 村山が仕掛けた罠に警察がどうやらはまった様だったが、彼は素知らぬふりを装う。

「意味、わかんないんだけど」

「詳しいことを話したいから会いたいって」

「篠田先生が俺に?」

「そう。今、病院にいるわ」

「……会いたいのは、俺だけ?」

 詩織は少し息をついた。

「きっちゃんは、涼ちゃんがそこにいること知らなかったから」

「……そう」

 村山は頷く。

「わかった」

「きっちゃんには私から連絡しておこうか? ちょっと時間はかかるけど行くって言ってるって」

「助かる」

 電話を切ると、真緒がじっとこっちを見ていた。

「涼ちゃん、帰るの?」

「うん、ちょっと呼び出しがあって」

 澄恵もわずかに顔をこちらに向ける。

「きっちゃんから?」

「うん」

 村山は頷く。

「良いニュースみたいだよ。論文の件で、義兄さんが犯人じゃないとわかったらしい」

 それを聞いて姉は優しく頷いた。

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