ケーブルTV4
「にしても、この部屋じゃ作業は無理だろ。隣に段ボールを移すぞ」
「コピーの束、忘れんなよ。これはお香ですって奴」
間違いなく脱法ドラッグだと高津は確信する。
脱法ドラッグ、最近では危険ドラッグという呼称に変わったそれは販売手法としてハーブやお香などと称して売られることが多い。
販売者が罪に問われない用心のためだ。
取り締まれるように法律もたびたび改正されているが、店舗販売でなければなかなか検挙は難しいと講師の先生は言っていた。
「ところで、これは例のアレじゃないんですよね」
「何度も言わすな。アレはこの町限定だからネットでは売らん」
男達が動くと汗の臭いがこちらまで来た。
(……でも、だけど)
テレビ局ともあろうものが、一体何をやっているのだ?
不意に右手の方ががたがたと音がして、側の段ボールが揺れる。
出口側から男達が段ボールを運び出し始めたらしい。
身じろぎした萌が、もう少しこちらに来られるように高津はやや左に身体をずらす。
(見つかったらやばいかも)
テレビ局の人に泥棒として捕まるのか、何か良くない企みを聞いてしまったことで捕まるのかはよくわからなかったが、それでも危険であることには変わりない。
(……どうする?)
箱は全部で二十五個。
端から順に彼らが運んだとしたら、三回目ぐらいで高津達は露わになる。
隣の部屋に箱を運んでも、七人もいるので次々に戻ってくるため、どうしたって誰かに見つからずに外に出ることはできない。
しかし、緊張すればするほど、テレポートするために必要な気力が削がれていく。
(……まずい)
高津は萌の手を握る。
そうして必死で部屋の風景を思い出そうと試みた。
だが、どうしても跳べない。
(くそっ)
彼を信頼しているのか、さほど動じていない風な萌の手を更に強く握り、高津は決意する。
(……人が全員部屋を出たら、廊下にいようがいまいが突っ走る)
点灯する人の気配に集中し、高津は微かに腰を上げた。
そうして、最後の一人が背中を見せた瞬間に立ち上がり、萌の手を引いた。
高津が何をしようとしているのか萌も理解したらしく、彼女も身体をかがめたまま膝だけを伸ばす。
(……今だ)
二人の男が隣の部屋を出て、再びこちらに戻って来ているのはわかった。
勝負は部屋を飛び出してから、彼らが二人に気づいて追いかけてくるまで。
その間、どれだけ距離を稼げるかが勝負だ……
だが、
「!」
不意に部屋の電気が暗くなった。
「何だ?」
「停電か?」
男達の声がする中、高津は慌てて部屋を出る。
(あいつらが暗闇に目が慣れる前に、階段を下りることができれば……)
幸い、高津は暗闇でも何となく位置がわかる。
そして萌は夜間視力がばつぐんに良い。
足音を立てないように非常階段まで進み、そしてゆっくりと鉄の扉を開け閉めした。
(……ふう)
緊張がやや解けたが、まだ気を抜ける状況ではない。
一階に出ると、出口にはまだ守衛がいた。
そればかりか、こんなに人がいるのに入り口はシャッターが降りている。
二人は申し合わせたように女子トイレにそっと入った。
そして、ようやく息をつく。
「どうなってるの?」
萌が不思議そうな声でささやいた。
「突然、停電?」
「そうみたいだね」
天恵としか言いようがない程の運のよさだ。
高津は床に座って気息を整えた。
緊張がほぐれたためか、さっきよりも集中できる。
(……ここで少し休めば帰れそうだ)
暗いので萌の手を握ったまま、高津は目を閉じた。
しかし、萌が身体の位置を変えようと動いた瞬間、
(あっ!)
バケツがひっくり返った音がした。
萌が引っかけてしまったのだろう。
「何だ?」
守衛の声がした。
懐中電灯の明かりがドアの磨りガラスごしに見える。
それがどんどん近づいてきて……
(いけないっ)
高津は萌を引き寄せ、そして咄嗟に壁に頭を打ち付けた。




