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まどろみ  作者: 中島 遼
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ケーブルTV3

(足、重っ)

 手すりを持って上がるのが精一杯だったが、それでも高津は頑張った。

(……四階には誰もいない)

 一番西の端の部屋のドアノブをつかみ、そっと戸を開ける。

 すると萌が言った通り、八メートル四方の部屋の半分ぐらいは段ボールが積まれていた。

 残りの半分にはオフィス用の机が並んでいたが、その机も物が一杯である。

(汚ない部屋)

 高津の性格からすると許しがたいほどの非整理整頓状態だ。

「CD、どれだろ」

 仮にここに求める物があったとしても、掘り出すのは大変そうだ。

 高津が考え込んだ数秒後、萌がいきなり机をがさがさとあさり始めた。

「も、萌!」

 慌てて高津は側による。

「元の状態を覚えてから物を除けないととばれるよ」

「大丈夫よ、これだけ散らかってたら、この辺にあったってことしか覚えてられないって」

 そうかもしれないが、そうじゃないかもしれない。

 しかし、既に萌は荷物をかき分けていたので、高津はため息をついて参加した。

「ないね」

「うん」

 言いながら、何となく気になって高津は辺りを見回す。

 ゴミ溜のような部屋だが、一応パソコンは三台ほどあった。

(……?)

 そのうちの一台が何となく気になる。だが、今は他の事にかまけている暇はないと思い直し、高津は別の机に移動した。

 ふらつくのをこらえ、机に手をついた状態でCDを探す。しかし、そこにもない。

「あ」

 声に高津が振り向くと、彼女は床にあった段ボール箱をのぞき込んでいる。

「これじゃないかな、この町トピックス係御中って書いた封筒の山」

 高津は頷く。

「それだよ、多分……」

 だが、高津はびくりとして感覚を研ぎ澄ます。

 さっきまで三階の一室にいた人間が一斉に部屋を出たのだ。

「まずい、人が来る! 逃げるんだ」

「どう? テレポートできそう?」

「ごめん、まだ無理……あと、三十分ぐらいかかるかも」

「わかった。じゃ、隠れる前にこの箱を直さなきゃ……わっ!」

 持ちあげようとした段ボールは底が抜け、ばらばらと郵便物が床に散らばった。

 慌てて高津は段ボールの底を4つに組み直し、そこに落ちた郵便物を放り込む。

「急げっ!」

「圭ちゃん、これっ!」

 萌が拾った封筒を高津に見せた。そこにはまごう事なき高津の実家の住所と彼の名が記されていた。

「じゃ、それ持ってて。後は俺がやるから」

 三階を出たのは全部で七人。だが、

「何であんなに……」

 それらが全てこちらに向かって歩いてくる事に気がつき、高津は焦った。

 萌の耳に口をつけ、小声でささやく。

「人が一杯こちらに来る。とりあえず隠れるんだ」

 箱を元の位置に戻し、彼らは積まれていた段ボールの陰に入ろうとしたが、

(……ん?)

 何となく嫌な予感がしたので、出口側ではなく、部屋の奥側の段ボールの方に萌の服を引っ張って潜む。

(……何故?)

 七人は分散せずに、廊下の一番端、つまりこの部屋に向かってくる。

(……まさか、これだけの人数で、この町トピックスの選別とかをするのか?)

 ぞっとした高津の予想通りドアが開き、この狭い部屋に七人の人間が入って来る。

「……だぜ」

「わかってるって。そんなことは」

 低い声で男はつぶやき、その辺りの椅子に座る音が聞こえた。

「今夜はオールで作業だからな」

 ぱんっと段ボールを叩く音がする。

「あ-、面倒くせ」

「わかった、タクマ、今の言葉、そのまま若頭に伝えておく」

「勘弁してくださいよ」

 業界の人間は軽くてちゃらい感じだと思い込んでいたが、意外にもドスの利いた声が飛び交う。

「ネットだからってこんなお香的なもの売ってないで、例のアレをばんばん売ればいいんじゃないスか? 絶対にサツに捕まんないんでしょ?」

「先方の意向で、この町限定なんだとよ」

「ばれないっしょ?」

「わからん。だが、うまい話を自分から棒に振る必要はない。相手の隙を見て、流通ルートを抑えてから、全国販売って手もあるんだからな」

 話が見えなくて高津は瞬きを繰り返した。

「でもネットとか、顔が見えねえから面白くねえよ。こないだみたく、予備校とか高校でちょっとマブいの探して薬打ったら、すぐに言いなりだし、飽きたら風俗に売っちまえばいいし」

「お前がそんなだから、サツが最近駅前うろうろしてんだよ、ちっとは自制しろ」

「あ、それからタクマ」

 別の声が割って入った。

「次の引き渡し日が決まった。中町の倉庫、緑の方だ。あそこで三十日の夜十一時、お前、俺と一緒に荷物運びをやれ」

「えっ、いきなり?」

「つべこべ言うな、あっちは先方から声がかかるまではひたすら待ちなんだから」

「了解っす」

 誰かがまた段ボールを叩いた。

「でも例のアレ、原価がただって噂を聞いたけど、本当なのかな」

「そりゃ、普通はないだろうな」

「にしても、モノホンに比べりゃ、やっぱり落ちるだろ?」

「いや、でも何か無茶苦茶気持ちいいらしいって、女から聞きましたけど」

「でも、見てるとエクスタシーとかとはちょっとイカレ方が違うよな」

 会話を聞いていた高津は、不意にびくりと身体を震わせた。

 最初は何の話か全くわからなかったのだが、この前の有機化学の講義で、講師が話していた余談を突然思い出したのだ。

 普段は眠たい授業だが、麻薬関係の話だったので学生は皆、目を光らせて聞き入った。

(……エクスタシーって、MDMA、のことだよな)

 正式名称は忘れたが覚醒剤の一種だ。

 メチレンジオキシ基が悪さをして人を興奮させる。

(本物でなくて警察に捕まらないってことは、脱法ドラッグ?)

 それによると、例えば有名な覚醒剤であるアンフェタミンをケト化したり側鎖をちょっと変えると、効果はほとんど一緒でも成分が違う物質になる。

(……ってことは)

 彼は自分の上に積み重なっている段ボールを見上げた。

 これもひょっとして全部……


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