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まどろみ  作者: 中島 遼
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ケーブルTV1

 ケーブルテレビ局自身は、高津が思っていたようなスタジオや設備の整った大手テレビ局のような建物ではなかった。

 駅前にある五階建てのビルにテナントとして入っている。

 古いビルだが、意外にセキュリティは都会並みにしっかりしているようだ。

 入り口を入った所に受付があるが、そこは改札のようになっていて、IDカードがないと入れない。

(……明日までに、何とか潜り込む方法を考えなきゃ)

 改札の向こうに入るにはどうするか。

 正攻法も考えた。

 だが、うまく理由が説明できないばかりか、高津や萌を印象づけてしまう可能性が高い。

「そんなの簡単よ」

 だが、悩む高津を余所に電話の向こうで萌はあっけらかんと言った。

「トイレ貸して、って言って、駆け込むの」

「それで?」

「女子トイレで圭ちゃんを呼んで、あたしは出て行く」

 意味もなく高津は赤くなった。

「俺に女子トイレに籠もってろって?」

「たかだか五分ぐらいよ」

 作戦の一つも立てていないのに、どうして五分ぐらいという数字が出てくるのかは謎だ。

 とりあえず自信たっぷりな萌に頷き、高津は眉間にしわをよせる。

「まあ、そこまではうまく行くとして、問題は次だよ」

「次?」

「どうやってそのCDを回収するかだ」

「その四階の西の一番端の部屋に行けばいいんじゃないの?」

 簡単そうに言うので、高津は質問形式に変えることにした。

「そこにあるかどうかわからないよ」

「少なくとも十時にはそこに物が集められることはわかってるんだもの。なければ待てばいいのよ」

「人がいたら?」

「出て行くのを見計らって部屋に入る。そして隠れる」

「大勢いたら? それに隠れる場所がなかったら?」

「大丈夫。サングラスかけたおじさんが一人で座ってるだけだし、やたら段ボールとか機材とかが積んであるから隠れる場所は一杯あるわ」

 驚いて肘を動かしたら、もたれていたベッドの端に当たってしびれた。

「痛っ、じゃなくて、何でそんなこと知ってるのさ?」

「昨日、圭ちゃんからその話を聞いて、向かいのビルの廊下の窓からオフィスを覗いてみたんだ。そしたらそんな感じだったの」

 そのビルは予備校から歩いて十分ほどのところにある。

「部屋、覗けたんだ」

 前に高津が視察したときは、ブラインドカーテンがびしっと降りていて中はまったく見えなかった。

「偶然よ。そのおじさんがたまたまブラインドを逆に引っ張っちゃったみたいで、開いたとこに遭遇したの。慌てて閉めたから一瞬だけ」

「……なるほど」

 高津は頷いた。

「他に気づいたことは?」

「出入りする人は、何かサングラスの人が多かった」

「テレビ業界ってそんな感じなんだろうな」

「そうなの?」

 わからないが、俳優などはいつもサングラスというイメージがあるので外れてはいない気もする。

 高津は萌に少し質問を投げかけた後、ゆっくりと立ち上がった。

「まあ、今晩、もう一度作戦を考えてみるよ」

「ね、やっぱり正直にCDを返してもらうのが一番じゃないの?」

「どんなの、って聞かれてもそれがどんなものかもわからないし、説明を求められると面倒くさい」

 そして、中身を見られるとさらに面倒だ。

 消えた外国人と萌が並んで映っている映像など、誰にも知られずにこの世から消さねばならない。

 少し萌と言葉を交わしてから、高津は電話を切った。

 計画と言っても、やれる事は限られていた。なので早々に彼の考えたプランを一度書き出した後、翌日には必要なものを買い出しに行く。

(……二人だと、きついな)

 ただ、今回は萌よりもむしろ高津の特性を生かせそうだった。

 こんな機会はまたとない。

 もっとも、逆に言えば高津の特性はこそ泥に向いているということになるのだが……

 火曜日、高津は講義をさぼって朝から電車で故郷に戻った。

 出身校の同級生や後輩に見られないように、二人は滅多に人の来ない城跡公園で待ち合わせ、そして人目につかない木陰のベンチで入念に打ち合わせを行う。

 あれから萌は何度か向かいのビルから覗きを敢行したらしいが、さらに不思議なことを言い出した。

「男ばっかりなのよね」

「テレビ局って夜とか遅いし、女の人だと大変なんじゃないかな」

「それにしても、今時、一人も見かけないっていうのも珍しいと思わない?」

「確かに」

 言いながら、萌は立ち上がった。

「計画の打ち合わせはこんなとこよね。じゃあ、あたしは一度予備校に戻って授業を受けてくる」

「俺は自分ちに戻って萌のメールを待つよ」

「わかった」

 電話をマナーモードにして、萌は手を振った。

 一緒にバスに乗っても良かったが、時差を設けた方が怪しまれないということで別々に帰るのだ。

 もちろん、自宅に戻っても共働きの高津家には誰もいない。

 高津が県外の大学に進んでからは、母親も残業し放題と聞いているので、かなりの時間、家でのんびりできる公算だった。

 コンビニでパンや飲み物を買い込み、近所の人に見つからないようにこっそりと家に戻ってベッドに寝転ぶ。

 しかし、緊張のあまり睡眠など取れない。

(……まあ、その方がいいけど)

 うっかり寝過ごしでもしたら、萌は単独で猛進することだろう。

 漫画を読んだり、SNSのチェックをしながら過ごしていると、やがて約束の夕刻になった。

 ゴミがあると母が驚くだろうから、一度マンションのゴミ捨て場にそれを捨ててから部屋に戻り、トイレなどを全て済ましてスタンバイする。

 そうして待つこと十五分、ようやく萌からメールが来た。


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