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まどろみ  作者: 中島 遼
37/89

地下への入り口3

 徐々に洞窟の奥から聞こえる声が明瞭になった。

「……まさか、こんな風になっているとはな」

「とりあえず、行き止まりみたい」

 英語の声の後、再び男の声。そしてその英語を訳すみどりんの声。

「いや、これは扉ではないのか?」

「そう見えなくもないけど、土壁の模様かも」

 自分に危険が迫っているなどとは露ほども思っていないのんびりした声だ。

「そこに手を載せてみろ」

「手?」

「指輪をかざすんだ」

「……なんかのロールプレイングゲームみたいね」

 高津がそっと忍びより岩の間から覗くと、懐中電灯を持った男と萌の姿が近くに見えた。

 その距離、十メートル程度。

「あっ!」

 萌が声を上げたので高津はびくりとそちらを注視する。

 と、萌の指に何か細い緑の光が天井から当たり、しばらくして消えた。

 そして、何かシュワシュワカッカなどという物音が辺りに響く。

「……認証しました。問題ありません。パスを呈示してください」

 みどりんが訳したのは、さっきの音なのだろうか。

「今、何が起こった?」

「……って?」

「お前の指に光が当たったろう?」

「うん」

「それで何が起こったかと聞いている」

「あたしには何も。一瞬痛いのかなって思ったけど、それほどでもなかったし。ただ」

 萌が目の前の岩盤を見上げる。

「でも、ここから先は行けないみたい」

「何故わかる?」

「何か、パスワードみたいなものがいるって」

「え?」

「そんな声が聞こえたの。認証しました。パスを呈示しろって。ということは、この先に進むにはそれがいるのよね」

 男はじっと萌の指を見る。

 そして、ゆっくりとポケットから十五センチぐらいの棒のようなものを取り出した。

「潮時だな」

「え?」

「この指輪がこの場所を示した。そしてこの指輪がこの場所に入る人間を認証した」

 萌が首をかしげたのがシルエットでわかる。

 しかし高津の背中は粟立った。男の色が急激に赤くなったのだ。

「っ!」

 萌の手首をつかんだ男が、持っていたナイフを振り上げた瞬間、高津はその場を飛び出した。

 だが、

「ぎゃああああっ!」

 高津が萌の所に行くより先に、男は頭上から突然落ちてきた鋭い光に全身を包まれた。

 そして、次の瞬間には、

「萌っ……」

 高津も信じられなくて、突っ立ったままの萌をつかむ。

「萌、今、君、何かした?」

 二人しかいない空間で、高津は萌の顔をのぞき込む。

 しかし彼女は目を見開いたまま、首を振った。

 と、またシュシュッカカクンといったような音が頭上に響く。

「認証ツールを強奪しようとした者は、規定により消去しました」

 みどりんが高津の足下まで来てから、機械的に訳す。

「どういうことなんだ?」

 まだ混乱していた高津はみどりんに問う。

「俺が知るかよ」

 みどりんは暗い洞窟の中でようやくぼおっと光った。

「わかってることはお前と一緒さ。さっきの男はもうこの世にいない。それとこの場所もいわゆるこの世とは少し次元が違う場所だということ。あと、萌は茫然自失状態だ」

 高津も本当は失神の一つもしたかったが、幸い、まださっきの事柄が現実だと認識するまでには幾分の余裕があった。

「行くぞ、萌」

 とりあえず萌の手を引き、出口に向かう。

 前に向かって進んでいる間は、立ち止まっている時よりも自分を律することができる。

(今、俺が確認しなきゃ行けないことは)

 明るい外に出てからも、高津は歩みを止めずに萌を連れてしばらく歩いた。

 抵抗もせずにただついてくる萌を、病院の見える小高い斜面まで連れて行った後、高津は彼女を座らせて再び現場に戻る。

 みどりんは少し悩んでいたようだったが、やはり高津にはついて来ず、主の側に鎮座した。

(……あの穴がどうなっているか)

 男が言ったことが事実なら、あの穴は萌がいなくなれば消えるはず。

(そうすれば……)

 さっきのことはなかったことになるのだ……

 それに、不安を感じている理由はそれだけではない。

(……宝)

 ミケが言っていたトンネル近くにあるはずの宝。さっきの奇妙な穴を真っ直ぐ行くと、確かに電車のトンネルがある方向に伸びている。

(……ということは、つまり)

 足早に現場に戻り、さっきと同じように木々をかき分ける。

「!」

 想像通りだと言えばその通りな展開。

 たどり着いたその場所には確かに何もない。

 そこにはただ、彼らが踏みつけた雑草の跡だけが静かに残っていた。


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