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まどろみ  作者: 中島 遼
13/89

毒蛙2

(……うーん)

 伊東と話をしていたら、また萌と話がしたくなった。

 とりあえず、相手の都合を確認するメールを送ってみる。

……今、何してる?

 するとすぐに返事が来た。

……本当は勉強って言いたいとこだけど、ぼおっとしてた。

 それを見て高津はすぐに電話する。

「家庭教師、やろうか?」

 すると軽い笑い声。

「古文と日本史の?」

「前言撤回」

 少し間があり、そして萌の声がする。

「実はね、あたしも今、圭ちゃんに電話しようと思ってたとこ」

「え!」

 それは嬉しい。

「何かあったの?」

「あったって訳じゃないけど、何かちょっと気になって。でも、あたしの感性じゃわかんないから、圭ちゃんに相談したかったの」

「具体的には?」

「蛇の話があってね」

「蛇?」

 不意に、大きな蛇がトンネルで死んでいたというニュースが頭をよぎる。

「萌が燃やした、あの大きな蛇?」

 息をのむ声がした。

「何で圭ちゃん、知ってるの? 伊東君が喋ったの?」

 その途端、さっと高揚した気分が薄れ、代わりにもっとどろっとした感情が沸くのを感じる。

 あの日、萌が危険なことに首を突っ込んだことを確かに高津は感じた。

だが、それを伊東が知っているとは思ってもいなかった。

「伊東と一緒にいたの?」

 つい、声が詰問調になる。

「まさか、力を見せたの?」

「多分、大丈夫……だと思う。暗かったし、伊東君、気がついた風はなかったし」

それは確かだろう。

 もし、そんなことを知ったなら、伊東は萌にいつもと変わらず接することなどできやしない。

(……いや)

 何故だかはわからないが、そうでもないという気はした。

 今回のことを伊東が知らないというのは事実だろうけれど……

「どうしてそんな危険なことするかな」

 我知らず、声が鋭くなる。

「普通の人間に万が一、萌の力を知られたらどうなると思ってる?」

「ごめん」

 しょんぼりした声に、高津は自分が嫌になった。

 半分くらいは嫉妬も混じってる。

「……いいよ、もう。だけど相手が誰であれ、次からは絶対、人前で危険なことするなよ」

「ごめん」

「……もういいよ。それより蛇がどうしたって?」

「それなんだけど、あたし、蛇を退治しに行って、実際、何とかやっつけたんだけど……」

「どうして蛇を退治しようなんて思ったんだ?」

 というか、どうしてそんな場所に蛇がいるとわかったのだ?

「この町の伝説にあったの。満月の夜に笛の音とともに、大蛇がやってきて人を食べるって。それがトンネル工事の行方不明の話に似てたから見に行ったっていうか……」

 あきれるほど考えなしな行動だ。

「よく伊東もそんなこと許したね」

「最初はぶつぶつ行ってたけど、一人で行こうとしたら一緒についてきてくれた」

 彼が伊東の立場でもそうしたろう。

「……でも、もし、今度そんな風なことをするなら、最初に俺に声をかけてくれよな。そうしたら、何かあっても力を存分に発揮できるし」

「うん。あのとき、心からそう思ったよ」

 わずかに気持ちが上向きになった。

「でね、今日の電話なんだけど」

「また何か気になる伝説でも見つけた?」

 からかい半分で言ったが、萌からは重々しい肯定の返事があった。

「蛇は悪い奴で人を食べたりしたけど、力はあったの。だから姫は蛇を屈服させた後、この地の守りに置いたというのが一つ目の話」

「……へえ」

「次の話は姫は出てこないけど、蛇の別の話があってね」

「ほう」

「大蛇が居座ったために、それまでいた毒蛙が怖くてでれこれなくて、それで大勢の人は心穏やかに暮らせたらしいの」

「はあ」

「どう思う?」

 どう思うと言われても返す言葉が思いつかない。

「萌はどう思うの?」

 こういう場合には質問返しが有効だ。

「そうね……次は蛙をやっつけなきゃ、みたいな?」

「蛙?」

「そう、毒蛙。蛇を倒したら、そいつが今度は町を荒らすはず」

「何か非科学的じゃない?」

「……圭ちゃんはそう言うと思った」

 言われて高津は少し反省する。

 こういうのを頭ごなしに否定すると、女の子は怒ることが多い。

「でもね、圭ちゃん、蛇は現実にいたし、あながち間違ってるとも思えないんだけど」

「そ、そうだね」

 慌てて高津は相づちを打った。

「で、蛙はどこにいるの?」

「……さあ」

 萌は考え込んだ。

「とりあえず、新聞をまめに見ることにする。そうしたら異変に気づくかもしれない」

「……ああ」

 何にしても、伊東でなく高津に声をかけてくれたというだけで喜ぶべきなのだ。

 ここで萌の感情を逆撫でするような言葉は禁忌だ。

「とにかく、何かあったら声をかけてくれよな。絶対に一人で行動しちゃ駄目だぞ」

「うん。ありがとう」

 萌は嬉しそうに言い、別れの挨拶の後、電話を切った。

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