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まどろみ  作者: 中島 遼
12/89

毒蛙1

「……何の用?」

 電話の向こうで伊東が笑う。

「用はないんだけど、ちょっとお前と話がしたくて」

「……気味の悪いことを言うな」

「村山さんに会ったよ」

「えっ!」

 間髪を入れずに発せられた台詞に瞬時固まる。

「実のところ、ちょっと心が折れたかも」

 どうしてか伊東は愚痴りはじめた。

「イケメンだろうが何だろうが、年齢からしても絶対俺に分があるって思ってたんだよな」

「ふうん」

 高津は仕方なしに相づちを打つ。

「だけど、実物を間近で見たら違うね。鳥肌が立ったよ」

 高津は微かに顔をしかめる。

 思い出すのは気弱に微笑む村山の表情。

 ほっこりしたことはあるが鳥肌が立ったことはない。

「まるで3DゲームのCGみたいに綺麗な顔でさ、あれで頭が良くて金持ちだなんて人間離れしてる。何か別の世界のオーラも見えたし」

 ため息が聞こえた。

「人外のモノと勝負しなきゃならないって思わざるを得ない」

「……人外」

 高津はつぶやく。

 それこそが離生何離人を指し示す言葉。

 畏怖であり、蔑視でもある。

 だからこそ彼らは小さくまとまっていた。

 高津のように、周りの危険を察知できる力の持ち主ならともかく、そうでない萌や村山は、己を小さく、そして見えなくすることで世間から糾弾されることを避けた。

(だけど……)

 伊東がそう感じたのは、村山が既にそれをやめているためかもしれない。

 己がこの世から弾かれる存在であることを知りながら、あえて自らを表明したとしたら。

 そのために、陰に潜み続ける高津や萌と縁を切ったのだとしたら。

 高津は震えた。

 村山の選択は彼を危うくする。

 彼の存在はそれ自身が捕食者を呼び、己を傷つける。

「……なあ、人の話、聞いてる?」

「あ、ああ」

 高津は首を振り、伊東の言葉に耳を傾けるように努力した。

「それはそうと予備校の話だけど、萌は大分なじんだみたい。まあ、元々あんまり物事にこだわらないタイプだし、そのせいかもしれないけど」

 高津は眉間にしわを寄せる。

「……伊東」

「ん?」

「お前は萌、大丈夫か?」

「意味、わかんないんだけど」

「萌は周りから厭われる性質だ。お前はそれでも大丈夫なのか?」

「おい」

 あからさまにむっとした声がする。

「喧嘩売ってる?」

「そうじゃない、言葉が悪かったのは謝る」

 高津が言いたいのはそういうことではない。

「萌の異質な感じ、お前は平気かと聞いている」

「俺は萌が異質だなんて思ったことはない」

 明快な答えが返る。

「そりゃ、ちょっとばかし他の子とはずれてるし、無口で何考えてるかを類推するのに苦労することもあるけど、いつだって一所懸命だし、頑張ってるし、何よりいい子だし」

「……そうか」

 高津は息をついた。

 ほっとしたのか、がっかりしたのかはわからない。

「安心したよ、これからも萌をよろしくな」

「何? お前、戦線離脱?」

「いや」

 高津は微笑った。

「お前がいて、萌が楽ならそれはそれでいいかなって」

「馬鹿野郎」

 軽蔑的な言葉が投げかけられた。

「俺は、いい人と戦う趣味はない。もう少し悪役になれよ。そうしたら俺、もっと積極的になんでもやっちゃう踏ん切りがつくのに」

「やめとけ」

 萌に下手に手を出すと火傷する。

「萌はお前よりも強い」

「やっぱりそう思うか」

 快活な笑い声がした。

「今のところはまあ、村山さんは住むところが違う人だってこと、わからせるように努力するぐらいにしとくよ。全てはそれからだ」

「……せいぜい頑張れ」

 二言ほどかけ、高津は電話を切った。

 どうしてか前のような焦りはない。

 やはり、この間のテレポート事件が効いているのか。

 あの後、幾度か萌と電話した。

 そして、時々、高津のテレポテーションの練習台になってくれるよう頼んだところ、彼女は快く了承してくれた。

 だから、どうしても会いたいなら、会いに行くことができる。

 それは高津にとって、もの凄く大きな出来事で……

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