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有 女 同 車   作者: OufPuf
7/8



前略 いつもありがとうございます。全くいつもいつも御世話になります。


はや三日見ぬ間に桜ですね。このぶんだと八重も咲き出しそうな勢い。これも地球温暖化でしょうか?


ところで、過日梅見のおりにちょっと言いかけた事でお願いがありまして 、、、


通常こうした依頼をどこへ持って行くのか分かりません。毎々相談業務の労をとって下さっている片野さんに、誰はおいてもと思い至ったのであります。忙しいでしょうにお手間を取らせてすいません。 m(_ _)m


シルクロードが見たああい!!!


と言ったのは、冗談でなく、本当です。本気なのでありまして。一緒に考えてくれませんか?


手っ取り早く肝腎な用件から申しまするならば:




この私に60日ばかり付き添って、中国の新疆ウイグル自治区を旅してくれる介護士を世話して欲しい




というのでご協力いただきとう存じますが。ひとつお願い出来ませんでしょうか! m(^.^)m


もともと私は筋金入りのバックパッキング娘なのでした。こんにちのようになる前は。


訪れた国や地域は数知れず。なんせ大学に入った十代より荷物担ぎをしているのでございました。今となっては危なすぎてスリル中毒の冒険家でなければ足を踏み入れない場所へも行きました。


に拘らず、割合メジャーな観光ルートというべきシルクロード地方が見聞のチャンスを得ぬままなのです。皮肉にも、こういう体になって初めて行こうと決心したのは良しとして、いったん行くとなると矢も盾もたまらないのは、性格なのでしょうね、きっと! (^^)d


二重の意味での皮肉が、亡くなった父が、実はシルクロード・シリーズのメーキングに携わったのでありました。古い方のです。喜多郎の音楽でも知られる伝説上のNHK特集は、父が生みの親の一人なのであります。取材班に加わって、いまだ閉ざされ知られざる道であった絹の道を歩いたのだそうです。


その苦労話は生前、しばしば口にするところでした。でも、若かった私は、いつか行くのだろうと想像はしながら、それよりはヨーロッパだとかアメリカみたいな所に憧れていました。物が分かってきたのち、中東やらアフリカやらの国々を経巡るようになってからでさえ、新疆は後回しにしました。元ハズとはエルサレムの街角で知り合ったのでございましたっけ。


中国は二度の経験があります。が、お定まりの大都市部だけで、敦煌はおろか西安にも行ったことがありません。


それで、最後の旅行は西安をスタートにします。敦煌・ハミを通ってタクラマカン砂漠をぐるっと一周する。鉄道を使わず、バスのみでやる予定です。【詳細は同封したルートマップと旅程表を見てください。写真の中で荷車に乗っかってショルダーバッグを下げたオジサマが、わが父君です。その頃、トルファンのようなオアシス都市にしろ驢馬車が主で、自動車など走っていなかったと聞いています】


途中、カシュガルから道をそれる形で、高原の町タシュクルガンまで足をのばします。もし出来るなら、国境をなす紅其拉甫峠を越えて、懐しきパキスタン領ギルギット・フンザにも入りたい。【以前、フンザの渓谷に遊んだついで、国際バスでカシュガル方面へ抜けたいと願ったのでしたが、あいにく標高4500メートルに吹雪く紅其拉甫峠は不通と言われちゃいました】


このような順路をもって、一応 “60日” としました。ただ、治療の関係で帰国を余儀なくされれば、そこで中断し、治療を終えたら再び渡航、といった局面はじゅうぶん考えられます。三ヶ月、四ヶ月、半年と延びる可能性すらあるでしょう。その期間をも含めて保障させてもらうつもりでいます。母ともこれは話し合って決着済みの項目です。


片野さん。無謀な、めちゃくちゃな計画と思われるでしょうか ^^  人が聞いたら、どうして今更とんでもない遠征を企てるのだと。


なればこそ専門家が持っているに違いないプロフェッショナルな智慧をお借り申したく 、、、おのれ一人の発想では荒唐無稽なトラベル夢譚に終始しまいとも限らぬ心配が生じる、故に、障害者への相談支援をして来られた専門員殿の助力が要るのでありまする。【本当、すいません。忙しいでしょうに 。。。】


さように残念な五体でシルクロード???でござりまするな?


如何にも。とは言え、ヒト様に分かってもらう道理でありませぬ。


本当ならば死ぬ自動車転落を、それでも死なないで、下半身痲痺になりながらも助け生かされた意味は、父が見た西域を見る為だったのに違いない。日がすぎるにつれ月がたつにしたがい、こう思うことが、こう思うことのみが、私にとって当たり前となりました。合理性がないだけに、自身で考えてもおかしくはあります。何故こんなに信じこめるのかと。タクラマカンの沙場に客死するさえいいと覚悟しています b(^^)


恐らく、命をかける旅でもあります。クオリティー・オブ・トラベルは一から十まで介護士の良し悪しで決まるでしょうから、あらかじめ注文をつけて、相談支援専門員殿には注文の範囲で相談に乗っていただいたら早いと思考したことでした:


片野殿へ注文のひとつ目。付き添いの介護士を一名にして欲しい。三人旅だと二対一の党派を生みやすく、余計な神経を使わされるのは面白くない。


片野殿へ注文のふたつ目。介護士が会話程度の英語は出来る事。これは必要条件です。【中国語がしゃべれるのならこの限りにあらず。】切符の手配から受けとり、ホテルの予約といった諸々を、車椅子の私がするわけにはゆかない。また、新疆滞在中ビザを更新せねばならなくなる。公安へ出頭したり申請書類を書いたりと、介護士が能動的に活躍してくれないでは困る。


片野殿へ注文のみっつ目。学校出の、ちゃんと福祉の教育を受けたスペシャリストである者が望ましい。無資格および二級ヘルパーさんは謝絶。三年間施設で働いた、とばかりの理由で介護福祉士に受かった人も、同じくこれ願い下げ。今通う施設にいる介護福祉士、その中には目も当てられない遺憾な職員が少なくない。おむつ交換が上手なのを鼻にかけているものの、満足に高等学校へ行った跡だに認められず、無教養にして破廉恥。相手が老齢であろうと命令を出したり、叱り飛ばしたりと、当然のごとくしている。【片野殿からも施設長へ言うてくだされ 、、、】一人、20代の若い女の子で大学を卒業したのち専門学校に入りなおしたという介護福祉士がいるけれども、自分などは一番心を許せるのが彼女。もう一人、中年ぐらいの男性職員にそういう介護福祉士がいる。彼女らは人の話が分かる点、旅の伴侶にもふさわしかろう。


片野殿へ注文のよっつ目【ないし提案】。特に性別は問わないけれど、或いは男性が良くはないか。知らない土地を長距離のバス移動、長時間の車椅子介助等、体力の差がものをいうはずだ。いわんや、外国人に対するハラスメントをはじめ、危険にさらされるような場合においてをや。幸い、施設を利用する身ゆえ、男性介護士に慣れている。


、、、と、勝手な言い分が沢山ですいません。どこまでも当方の「希望」です。あとは片野殿にお任せできればと存じまする 、、、


新聞を見ると、新疆は政治が思うように行っていない様子。情勢をうかがいつつ、私は更にリハビリに努めてシルクロードに備えるとします。それから、



片野さん、お花見に連れて行ってね! 啓子



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