翁
三十年若けりゃ啓子ちゃんを口説きおとすが。アメリカ中連れまわさあ。いいなあ。今となっちゃ夢。三十年と言わねえ。このアシが使えりゃあ。
そうなればアゼルバイジャンでいいや、どこなと連れてってやるべえに。ああいった美人なのによ。俺は惚れてるな。
松山っていう、それ、歯のねえワーカーがいたろ。まだ見ねえか。ま、一遍見るってえと忘れねえ顔だよ。俺は、気があると睨んでるんだが。だとすりゃあいいなあ。頼んでみっかなあ、シルクロードを見せてやってくんねえかって。啓子ちゃんと話しててさ、今度不倫旅行をどこにするかって。
「横溝さあん、シルクロードにしましょう、シルクロードにしましょう。」
目を輝かして言うんだろ?
やっぱりな、この先おっかさんが年をとって、いなくなったと思うと。何とかならねえものかって、そのことが気がかりでな。
啓子ちゃんも愛が欲しいに決まってる。愛ってなあタダもらうんで、タダでなかった日にゃあ愛じゃねえ。ここの施設サービスと同じになっちまう。タダでいて金を積んだところが買えやしねえ。愛がいらねえって女はないよ。俺だっていらあ。誰だって一番いるもんがタダと来あがった。しかも銭じゃあ手に入らねんでこいつが始末に負えねえ。何とかしてやりてえさ。松山君が休暇をとって行ってくれると一等話が早い。
いいがなあ、あの二人。