七話 「時代の流れは」
7話目になります
事件は無事解決。後犯人達の自供を基に攫われた人達を救済するだけだが、
そんな仕事はジュン達冒険者には関係無い。後は国の仕事となるだろう。
「それがそうもいかんのだ。最近内外の国が荒れてな、それ処ではないのだよ」
詳しく聞けば、なるほどと理解するジュン。ここはGE世界
群雄割拠が名を挙げ小国家が乱立し始めたゲーム開始時状態に
自分が居る事が判った。
(じゃ~俺がチームを作成し功績と信頼を得られ続ければ…王国を作れるな…)
「…ジュンちゃん聞いてる?」
「ああ、ごめんなさい。聞いてませんでした…すみません」
「だからね。今回貴女の行動は犯人逮捕。まぁ~実際にそうだし、実行したって
事になったから、懸賞金は全額支給よ。それと合わせて今まで受付して無い
討伐依頼も事後報告で処理を済ませるわ。…それで総額15万£にも成るわよ
いっきにお金持ちになったわね」
羨ましそうに俺のGCを返却しながらケリーお姉さんが言ってきた。驚いた事に
他の職員から話を聞くとケリーさんは人妻それもGMのケビンさんが旦那である
だから先日の会合でもどこかGMより上から目線で話をする事が在ったんだと
ジュンは思った。
「えぇ~でもケリーさんは重役ポストなんでしょ!?旦那さんがGMなら
安泰じゃないですか。私なんか働けなくなったら終わりなんですよ」
「あら!そんな事は無いわよ。有能な冒険者は昔から財を成して騎士や貴族に
成る方が殆どなのよ。ましてこの時季女性が家名を建てる事も可能だわ。
貴女は今『時の人』この国で最初の家名を立ち上げた女性になれるかもね」
そんな冗談を言い合いながら、ケリーは押し迫る事後処理に狩り出されジュンと
アデルは解放、やっと定宿『風流』に帰る事が出来た。
「お姉様お疲れ様です。このまま宿にお戻りになりますか?」
「いいや、先ずはヘルマンさんの店に寄って借りていた鎧やら箱を返すよ
あれだけで、ボクの全財産の倍以上の品々だからね、壊したら大変さ」
俺の台詞で指を数えながら計算するアデルが叫ぶ
「えぇぇぇ~さ、30万もするんですか!!」
「うん。多分それでも足りないと思う」
「お姉様急いでヘルマンさんの所に向いましょう。私は鼻を効かせますから
不審者や見知らぬ人は近付かせません。ご安心下さい…急ぎましょう」
アデルは壊れた時の不安に狩られ俺を追い立てるようにヘルマンの店に導く
「本当に有り難う御座いました」
「そうか。終わったか。ご苦労さんじゃったな。今日はゆっくり休め
明日暇になれば、ここへ来なさい」
借りた物を無事全部返し宿に帰る二人。宿では女将が首を長くして2人の帰りを
待っていた。
「お帰りなさいませ。ご無事でなによりです」
客がチラホラと賑わう中、女中に他の客を任せ女将は2人の下へ出迎えてくれた
「御心配をお掛けしました。無事解決したので、肩の荷が降りた気がします」
俺が報告するとホッとした笑顔を見せる女将。今日は内風呂を用意したからと
報告し二人を部屋に通す。
ジュン達が持ち込んだ兎の肉達が食材を卸す業者から漏れ何気にこの数日客足が
増している。やはり血抜きはハンターの腕次第。幾ら板前の腕が良くても素材が
悪ければ、それまでだ。『風流』の板前ロジンは結構有名なシェフ。
それに素材が良い肉が入っていると噂が流れれば、その料理目的に来る客も多い。
この日女将の勧めで二人は室内で食事を取る事と風呂に入る事にした。
「はぁ~大仕事の後の贅沢なお食事は正に究極の幸せですね~」
アデルは膨れたお腹を晒し行儀悪く両足を投げ出す姿で満足感に浸っている
この数日の緊張感が解放されたので、地の彼女の姿が垣間見えた。
「そのまま寝るんじゃないぞ。しっかりフロに入って汗を流すんだよ」
「はい。お姉様。お姉様のお蔭で私はお風呂が大好きに成りました。
今夜も欠かさず汗を流します」
戦いの疲れも在って今夜は大人しく風呂を共にする髪を洗いあって背中を流し
内風呂ならではの静けさと安堵感を味わって早い時間に床に付く
俺は、どれ位眠っていたのだろう?異変に気付き目を覚ます。誰かが来た様子は
無い。念の種残党が居て仕返しに来るかもと罠を張っていたが、その形跡も無い
ふと安心を覚えアデルのほうを振り向くと彼女が苦しそうに悶えていた。
「ア、アデル!どうした?何処か痛むのか?」
幼いアデルが玉の様な汗を掻きながら、ウンウンと苦しんでいるから俺は慌てる
急いでステータス画面を覗いてみるが、毒や麻痺と云った状態異常は見られない
何が原因か判らずパニくる俺。
「なんで?何で?苦しんでるんだ!アデル、しっかりしろ。アデル!」
深夜の騒動に女中が部屋を訪れると苦しんでいるアデルとパニくってる俺を見て
慌てて女将を呼びつけた。
「ジュン様、どうなさいました? アデル様!大丈夫ですか!?
トミさん、急いで教会へ回復師を来て頂く様お伝えしてきて!」
「女将さん、今日は土曜日ですよ。教会の方は何方も居無い筈です」
「それでも!一応覗いてきなさい。それとヘルマンさん、ヘルマン宅に使いを
急いで!…アデル様。アデル様気をしっかり。アデル様」
女将の慌てぶりは異常なまでの行動で横で慌てていた俺ですら正気を取り戻す
程である。お蔭で再度ステータス画面と鑑定のメガネで苦しむアデルの身体を
冷静にチェックする事が出来た。
教会に偶々残っていたシスターに往診してもらうが、特に原因は判らず、
それでも回復呪文『ヒール』を掛けて貰うと苦しんでいたアデルの表情が和らぐ。
ヘルマンも駆けつけるが彼も手の出しようが無い。侘びを言い、彼が持ってきた
鎮痛剤を貰い一度帰ってもらう事にした。
シスターも『これ以上は…』と言葉を残し宿を去る。
部屋に残るは、どうにか苦しみから脱したアデルと俺と女将だけだ。
俺はアデルが元気に成れば寝れば良い。だが、女将は夜が開ければ仕事が
待っている。看病をさせてと進言する女将を制し自室に帰らせた。
そして部屋には再び俺とアデルの2人だけとなった…
「アデル…」
濡らしたタオルでアデルの汗を拭く俺。出会ってまだ10日も経って居無い。
幼いアデルの変化に気付いてやれなかった不甲斐無さに俺は自分自信に怒りを
覚えた。ここは俺の知るゲームの世界では無い。アデルや女将さん板前のロジン
さんや女中のトミさんはゲームの設定にも無い。ここは似て非なる世界なのだ。
もしも…万が一…このままアデルが目を醒まさ無かったらと思うと
恐怖でいっぱいになる俺だった。
「うぅ…う~」
ハッとする俺!いつの間にか転寝をしてしまった。反省し慌ててアデルが眠る
ベットを覗き、そして俺は…固まった…。
「…誰?」
アデルが寝ている筈のベットには同じ髪色で同じ髪型の女の人が幸せそうに
寝ていた。慌ててベットの下やらトイレに風呂場と探し回るがアデルの姿は
何処にも居無い。呆然とする俺の下に朝の仕度前に女将が再び部屋を訪れた。
「失礼します」
部屋の中に入り俺が呆けている姿を見た女将は慌ててベットに駆け寄って
「おめでとうございます!アデル様は成変だったんですね。
何か得たいの知れない病気かと心配しました」
「えっ!?何それ??」
更に謎が深まり呆けるのは俺独りだった。
七話 「時代の流れは」 完
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