五話 「手作り弁当」
本日2本目
本編分です
朝飯をシッカリ食べ南門からこっそりと街を出る。まず向う先は町の西側だ。
町の出入り口は北と南にしかない。あえて俺は防護壁に沿って西を目差し、
そこから歩いて15分の距離で魔法遮断箱の蓋を開ける。そこから更に5分ほど
歩いては蓋を閉める動作を3回ほど繰り返すと、しっかりと蓋を閉めてから
大急ぎで北門を目指した。
奴等を誘き寄せる為だ。コレで少しは西側に足止めできる。最悪でも西に注意が
向く筈だ。その隙にグルッと回り込んで俺達は町の東側で狩りをするのだ。
アデルはまだ、戦闘に加わるには幼くて不安だ。だが、彼女の鼻はとても有効的
だった。昨日よりも多くの角兎を見つける事が出来たからだ。
「お姉様…凄い…」
アデルはアデルで驚いていた。まさか俺が魔法を使えるとは思って無かった
のだろう。初級魔法の其々を打ち込む俺に目を輝かせて居る。
「あぁ~少し休憩。流石にローブを着てても堪えるわ~」
術士のローブは基本魔力の5%アップとなるが、まだまだレベルが低い俺には
精々魔法1回分増えるかどうか?位にしかならないからだ。
「お姉様、私はお姉様をお守りするのがお役目です。ソロソロ私にも戦闘に
参加する事をお許し下さい」
尻尾が真下に垂れ下がり懇願するアデル。だが俺は彼女の参加を認めない
名前 アデル 性別 ♀ 種族犬人族
年齢 6歳 職業 奴隷
基本LV 06 職業LV 03
体力 『060/060』
剣LV 03
固有スキル
『野生の嗅覚』『野生のカン』
スキル
『忠義の心』
思った通りPTメンバーなら戦闘に参加しなくてもレベルは上がる。
但しアデルの成長は俺に比べると少ない気がした。それに『忠義の心』なる
スキルが俺の心にブレーキを掛けるのだ。これは主人である俺が生命の危機
となれば、身代わりとなるスキル。そんなモノをアデルに使わせる訳には
いかない。彼女は今は隠れているだけで成長するんだ。ソレよりも俺が此処では
絶対負けない程まで成長しないと安心してアデルを狩りに出せる気分に成らない
「人が来ます」
アデルの忠告を聞き岩陰に隠れる。昨日見た男達だけとは限らない。
当面知らないメンツとは極力会わない方針で俺達は動く
「ほら!アデルは十分役に立ってるさ。ボクだけなら、あの2人に気づく事は
無かった。君は立派なボクの仲間だよ」
嗜めながら可愛がりゆっくりと成長を促す。折角出来た俺の妹…
もう少し兄貴気分を楽しませておくれ。
角兎を通産20匹。『硬皮猪』を10頭狩った頃にお昼タイムとなった。
宿屋『風流』の女将が内風呂は要らないと俺の言葉に侘びと礼を言い代わりにと
2つの弁当を用意してくれた。板前さんの仕事では無く女将の手作り弁当だ。
「女将さんのお弁当…美味しいですね。ほっぺが落ちちゃいそうです」
そう言いながらアデルはまたも尻尾をパタパタと振っていた。
あ~この娘が本当にワンちゃんだったなら…番犬は無理だな餌に釣られて連れて
行かれるかねない。うんしっかりご飯を毎日食べさせよう。
最低でも良い物の味を覚えさせなきゃ不安だ。そんな事をアデルの姿を見ながら
俺は思ってしまう。
「これ!女将さんの手作りなんですよね。なんて云うんですか!?えっと朝食
とか、昨日の夕食は凄いなぁ~って感じたんですよ。綺麗だし美味しいし
でも、女将さんのお弁当は…そう!温かいって思えます。本当は冷たいんです
けど…こう心が温まるって言うか、とにかく美味しいですね」
アデルの喜びに気付いてしまった…俺の昨夜の風呂の様にアデルは女将の弁当に
母親の温もりを重ねているのだろう…6歳が獣人にとって、どう言うものか判ら
ないが、アデルが幼くして母親から離された事に違いは無い。
「もう少しアデルが強く成ったなら、女将さんにお土産の肉狩ろうな」
「はい。是非そうしたいです。お願いします」
元気良く返事をするアデル。今日一番の尻尾の振りが俺の目に留まる。
陽が傾く頃、俺の成長にブレーキが掛かり出す。ソロソロ此処での狩りが終わり
を告げる合図だ。次の狩場に行かなくては成らないのだろう。ステータス画面を
確認すると基本LVは15に職業LVも8に育っていた。体力は300近くに
なり魔力も250を越えている。剣のLVも10まで育った。たった2日で俺は
初心者レベルを脱しているようだ。因みにアデルは基本LVが9に職業LVが5
体力は120に剣LVは7まで成長していた。体は幼いが俺と出会った頃に少し
足りない位までは育っている。これならば、此処での狩りは安心して良いだろう
「アデル一緒に角兎を狩るか?『兎のモモ肉』は女将も喜ぶと思うぞ」
「良いんですか!?やった!!やっと私にも戦う事を許して下さるんですね
有り難う御座いますお姉様。一生懸命がんばります」
アデルの喜ぶ顔を見ていたら、もう少し早い時間にさせれば良かったかなと少し
後悔する俺。まぁ~可愛い妹だ。少し過保護に育てても誰の文句も出ないだろう
「お姉様居ました。角兎です」
「よし!アデル戦ってみろ」
「ハイ!アデルいきま~す」
「…姉様…???」
なんとナイフで一発素早い動きの角兎を意図も簡単に仕留めるアデル。
これには、俺も本人も驚くしかなかった。…獣人とは人と同じ数値で測っては
いけないんだなと思い知らされた瞬間だった。
「ようお嬢さん今日はどうしたね?」
「買取をお願いしようと思いまして」
俺はアデルと共に昨日の防具屋の店を尋ねた。本来ならば、ギルドで討伐依頼を
精算してからが良いのだが、夕方時は大勢の冒険者が依頼達成の報告に立ち寄る
そんな中、奴等もきっと見張っている筈だからと踏んで、俺はそのままこの店に
向ったのだ。
「ほぉ~その娘がお前さんの護衛兼相棒かいメンコイのぉ~飴舐めるか?」
(いかん!アデルやっぱりお前は尻尾を振ってるぞ)
飴を舐めながら俺の傍で待っているアデル。ソレを横目で見ながら今日の収穫を
精算してもらっていた。
「ひぃ・ふぅ・みぃ…凄い数じゃな」
そう言いながら俺とアデルを見詰る店主のオヤジ。
「中々良い鼻を持ってる娘の様じゃ。それにお嬢さんも見た目に反して腕も
良さそうじゃな。肉のバラ仕方も巧いじゃないか。この店でこれだけの角と
毛皮を扱うなど…何十年ぶりかのぉ~懐かしい気分を味わったな」
そう言いながら微笑むオヤジ。ホレ!と買取価格を提示してきた
兎の角と毛皮が其々20個。猪の牙が15本合計で4千£の表示となっていた
「オヤジさんコレ?」
「綺麗な品じゃからの少しだけ色を付けておいた」
2人で礼を言い店を出る時に、俺はオヤジに名を告げる。互いに名を
名乗っていなかった事を今更気付き笑う二人と呆れるアデル。
店主の名は『ヘルマン』防具屋へルマンそれが店主の名前だった。
道具屋で回復薬とマッピングの巻物を購入これで地図は自動生成される筈だ。
後は金銭にユトリガできたら考えよう。宿で疲れを取って明日に備える事にした
アデルの土産に喜ぶ風流の女将。今日も客は俺達だけらしい。板前さんが
御裾分けした兎と猪の肉を使って夕食の花に添える。
お腹いっぱいに食べるアデルを見詰る大人達。一時の和やかな時間が『風流』
に流れ俺もソレを楽しんだ。
五話 「手作り弁当 完
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