十話 [女将の気持ち」
10話目です
さっぱりと小奇麗に成ったマギーとアインにアデルの三人娘は何時もなら
村人の服に着替えて部屋に帰る所を女中のトミに誘われて奥の部屋へと
連れて来られた。そこではボクと女将が待ち構えている。
「お姉様?」
部屋いっぱいに並べられた服の山にアデルが戸惑う。
「さぁ~皆。どの服が良い?先ずはご自分で選んで御覧なさい」
女将は昨夜から何かのスイッチが入ったのか、新人のマギーやアインにも
お構い無しでアデルと同じく妹の様に接していく。流石にボクには様付けで呼ぶ
けど、どこか恋人的?姉さん女房?な接し方だ。
「私は…この様な綺麗な服は初めて目にします。恐れ多くてとても…」
DEのアインは少し引き気味で話し出す。DEの社会的地位は低い扱いが多い。
戦闘特性は他の種族に対し可もなく不可もない。エルフと比べて魔力は低く
精霊治癒も行なえない。使えない種族とレッテルを貼られるケースが多い分
性奴隷として扱われる事も屡だ。
外見女のボクが主となり、イキナリ温泉に入れられ綺麗に着飾れと言われたら
次に待ち構えるのは、変態オヤジの接待と怯えているのかもしれない。
「安心して、貴方達は戦いの世界に身を措く事になるけれど、
それでもスケベな男共に身体を委ねる事は無いわ。
このジュン様は…貴女の主は将に成れる器の持ち主だと私は思ってるわ。
下に付く貴方達が貧疎な格好ではジュン様が笑われるの。
…それに女の子ですもの、戦わない時位は着飾った方が可愛いでしょ」
女将ヘイゼルの言葉で少し気を張っていたアインの心が緩む。
「本当に、本当に好きな服を着ても良いんですか?」
「ええ。此の服全部貴方達にあげる。だから好きなモノを選んで!
着方を教えてあげるから…ネ」
中身が男なボクの所為で、アデルでさえ遠慮していた所を、女将の言葉で
三人娘は一斉に服の山に飛びついた。
「女将さん…ボクが気が廻らないばっかりに…有り難う御座います」
「うふふっ。気にしないで下さい。私が楽しんでしている事ですから
それよりジュン様。娘さん達って、これ以上増えませんの?」
女将の質問はボクが出かける前に棚上げした事に直結すると思った。
だからボクは、僕の考えを彼女に聞いてもらう事にする。
「最低でもPTメンバーを6人にしたいと思ってます。盾役と回復役の2人です
当然、ここまで来れば残りも女の子で揃え様と思います。それに出来れば
もっと数が増えるかも…そうなると…今でもボクを入れて4人ですから…」
「そうですね、もっと多い方が安心ですね。そうなると今の部屋では
手狭ですね…そこで相談なんですけど、此の宿の裏に1軒
『3階建ての空き物件』が在るんですよジュン様、その物件
お買いになりませんか?」
いつ宿を出ようかと考えていた僕に女将が言った台詞は驚く言葉だった
たかだか17歳のボクに家を買え!だなんて…あまりにもご無体な話です~。
元々町の東地区で宿屋を経営していた女将の実家。両親が他界し、跡を引継ぐと
同時に規模を小さくし、此の南地区に移転して来たらしい。裏の物件は先代が
東地区で宿屋を経営していた際に使っていた寮だった。風流は客室が5室。
当然、従業員の数も激減。寮は閉鎖したが売らずに今日まで残していた。
それをボクに譲ると言うのだが…先立つものがボクには無い。
「今ジュン様達が使ってる部屋。無理すれば6人は泊れるでしょ。だから
今の内に改修作業に掛かれば、増える頃には使えると思うの。どう?」
「どう?って聞かれても…大体ボクには家を買うお金なんて在りません。
確かにメンバーが増えれば、此処を離れないとって考えてましたけど…
まさか家を買うなんて今のボクには無理です」
「ダメよ~ジュン様やアデルちゃん。それに今日から加わったマギーちゃんや
アインちゃんと離れて暮らすなんて私には耐えられないわ」
「いや~耐えられない…って言われても…資金的に無理でして…」
「あぁ~お金の事。そうね…じゃあ当面は賃貸って事で、今まで通りお肉を
ウチに卸してくれれば、それで十分よ。改修費とかも全部私持ちでするから
資金が溜まったら購入って言うので良いかしら?」
「良いかしら?って言われても…それに此のメンバーでは生活出来るとは
思えませんし…ボクも家事は、からっきしですから」
「そうね…それもそうだわ。戦闘で疲れて帰ってきて家事はキツイわね。
トミさん!誰か良い娘紹介して。その娘を裏の専属にしましょう」
「通いで良いなら3~4人当ては在りますよ。それより女将さん。この娘達
仕上りましたよ。見てください」
トミさんの台詞でボクとの会話を終える女将。ソコに替わってトミさんが忠告
してきた。
「ジュン様。御諦め下さい。女将は幼い時から御自分で決めたらテコでも
動かない方なんです。それで先代がどれだけ御困りに成った事か…ですから
此の話は、女将が持出した時には、拒む事なんて出来なかったんですよ」
「も~う。トミさん!余計な事言わないの。ジュン様が怯えてしまうでしょ」
トミさんとは古い付き合いらしい。戯言を言い合い笑いあう二人。
確かにボクには、断りきれない話だ。こんな好条件を逃したら…と思うと
ボクは正座したまま、深々と女将に頭を下げた。女将とトミさんがクスっと
笑顔を向け軽くお返しのお辞儀を返してくる。またもボクは『拾う神』の出現で
力を得る事になった。
気持ちを切り替え皆の御洒落を楽しむ事にした。アデルは草木染のキュートな
ミニドレス。マギーはタンクトップにハーレムパンツ色はどちらも黒だった。
そしてアインは真っ赤な袖なしで前開きのキャットスーツだ。
どうやら、皆の好みと云うよりも、散々ダメだしした女将の趣味っぽい
「う~ん。やっぱり皆が選んだ服は地味ね。自分たちの魅力を引き出すのは
今の服が良いわ…ジュン様も思うでしょ。着慣れてないから仕方ないけど…
当面私が皆のコーディネイトしてあげる」
ごめんボクには『うん』としか返事出来なかった…でも確かに皆似合ってるよ
十話 「女将の気持ち」 完
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