1-2 侵略者は青年の部屋に住む
さて、軽く散歩を終えて気分を一新した昴流が家に帰ると、翼がトントンと心地いい音を立てながら朝食を作っていた。
「ただいま」
「おかえり……まったく、朝からコンビニなんてどうしたの?」
「いや、ちょっと嫌な夢を見たからさ、目を覚ましにね」
「そう。もうすぐできるからもうちょっと待っててね」
いつも通りの朝の光景だ。
昴流と翼の両親は第十三ブロックへ長期の出張中だ。
そのため、家の家事全般は昴流がやっているのだが、料理だけは姉である翼が担当なのだ。
昴流は、分かった。と言って、階段を上がっていく。
自分の部屋の扉を開けようとしたところで、思わずためらってしまった。
「あれは……夢。だよな?」
きっと、扉を開ければいつも通り自分の部屋だ。
そう。壁も壊れていないし、侵略者なんて来ていない。きっと、大丈夫だ。
自分に散々言い聞かせながら、ゆっくりと扉を開ける。
「うむ。よくぞ帰った! 人類よ!」
昴流は勢いよく扉を閉じた。
今、確かに黒髪ロングの女の子が立っていた。
「あれ? まだ、目が覚めていないのかな? なんかいたような気がする?」
まだ、目がしっかりと覚めていないのかもしれない。
顔でも洗ってこようと、考え昴流は階段を下りていく。
「おい! 人類無視するでない!」
自分の部屋で誰かが騒いでいる気がするが、きっと空耳だ。
昴流は、小さくため息をつきながら階段を下りて行った。
*
顔を洗い、軽く寝癖を直すころには翼から朝食ができたと声をかけられる。
昴流は、いまだに眠たいのであろうまぶたをこすりながら、食卓についた。
テーブルの上には三人分の食事が用意されていて、それぞれ目玉焼きが一枚とベーコンが三枚ずつ、そしてトーストだ。
「いただきます」
「いただきます!」
「はい。どうぞ」
ちゃんと両手を合わせてから箸をとる。それは、目の前の女の子も同様だ。
「うむ。この目玉焼きいい具合に焼けておるの。なかなかうまいぞ」
「そう。よかったわ。どんどん食べちゃってね」
「おお! よいのか! それでは遠慮なく食べさせてもらうぞ!」
「まったく、舞ちゃんったら!」
目の前で仲の良い友達のような会話をしている二人を見て、思わずほほえましくなってしまう。
それと同時に一つの疑問が頭の中をよぎった。
「というか! なんでお前がちゃっかりと家で朝食食べてるんだよ!」
「あぁそれか。一応、姉上殿との平和的話し合いでちゃんと解決したぞ?」
「そうよ。話し合い(物理)の結果その子、昴流の部屋に住むことになったから。ちゃんと面倒を見てあげるのよ」
「なんでだよ!」
昴流が家を出ていたのはわずか10分程度だ。
その間になにがあったらこんな結果が生まれるのだろうか?
まじめに問いたいが誰に聞けばいいのかもわからない。
「なんで、俺の部屋なの? 姉ちゃんのところでいいじゃん」
「いやよ。侵略者と同じ部屋で暮らすなんて……あなたは、こんなかわいい子と同じ部屋で寝れることに感謝しなさい」
「いやいや、いろいろとおかしいから。常識的に考えてよ」
いくら宇宙人とはいえ、見た目はいたいけな少女だ。
そんな彼女と一緒の部屋にいるなんて、いろいろな意味で大変に決まっている。
「ダメよ。その子があなたの部屋がいいって言ってるんだから」
「うむ。なんだか、命の危険を感じたのでな。お前の部屋の方が良いということだ」
「命の危険って……」
具体的にどんな話し合い(物理)をしていたのだろうか?
気になるところではあるが、知ったらきっと後戻りできないだろう。
昴流は小さくため息をついて箸を置く。
「ごちそうさま」
「おい人類! 食事を残すのはよくないぞ!」
「そうよ昴流! あんまり口をつけていないじゃない! 昴流!」
昴流はそのまま食卓を離れて自分の部屋に向かう。
部屋の扉を開けていると、相変わらず部屋に大きな穴が開いている……ということはなく、きれいに閉じられていた。
「あれ?」
「驚いたか人類。私の魔法さえあれば、このような壁治すのは造作のないことだ」
驚いて口をあんぐりとあけている昴流の横から、自慢げな表情を浮かべた女の子がやってくる。
「どうした? 直せと言ったのは人類。お前だぞ」
「……いろいろ追いつけない。とりあえず、おとなしく話し合おうか」
昴流がちゃんと現実を受け入れるための提案であった。