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境界を越えた侵略者  作者: 白波
1.境界の向こうより
2/3

1-1 船外から来た女の子

 今、昴流の目の前にはちょこんと女の子が座っていた。

 彼女は、ばつが悪そうに頭をかいていた。


「それで? お前は何者なの?」

「うむ。よくぞ聞いてくれた! 私は、人類を侵略するためにやってきた」

「そういうのはいいから。どこの誰なの? 真面目に答えて」

「ひどいのう。私は真面目だよ。そう。至って真面目である。何の問題もない」


 あくまで目の前の少女は、侵略者を名乗るようである。

 人類が宇宙へと飛び出して早半世紀。今まで宇宙人がいたなどという話は聞いたことがない。そもそも、他に知的生命体……それもこんな人型のものがいるような星があれば、とっくの昔になにかしらの動きをしているはずだ。


「とりあえず、百歩……いや、一万歩譲ってお前が侵略者だとしよう。こんなとこ侵略して何の得がある?」

「うむ。それはズバリ、この地球の文化である。そもそも、素晴らしき文化がなければ、このようなローテクの塊のような船、侵略するに足らないのう……まぁ私の星に来たところで中に入る前に消し炭確定だの」

「おいおい……」


 光速移動装置だのなんだの仕組みはよくわからないが、この船は地球人類の技術の粋の塊だ。

 中でもここ第二十三ブロックはこの船団の修理用部品の製造を手掛けるほど工業が発達しているブロックだ。

 そこにおいて、技術力が低いだのローテクだの言ったら、ブロック内に多数点在している工場の関係者がお怒りになること間違いないだろう。


「そうかい。そらどうも……侵略者ごっこはもういいから、さっさと家に帰れ。ただし、壁を直してからな」

「何を言う! 私は侵略者だぞ! そのようなことを言われて引き下がると……」


 悪びれる様子もない女の子の様子にあきれてしまう。彼女の言葉を半ば聞き流しながら昴流は小さくため息をつく。


 よくここまで侵略者になりきれるものだ。とここまで来て、視線は自然とぽっかり空いていた穴のほうに向かっていた。

 それにしてもだ。こんな幼い女の子がどうやって大穴を開けたのだろうか?


「昴流! 昴流! さっきから何やってるの!」


 そんな疑問に浸る間もなく、下からそんな声とともにドタドタという音が聞こえてきた。


「やばっ! こんなところ見られたら……」


 おそらく、いま階段を上がってきているのはこの家のもう一人の住民、昴流の姉(つばさ)だろう。

 考えられる限り最悪の事態だ。


「どうしたのだ?」

「姉ちゃんが来てるんだよ!」

「何をあわてる? 人類が二人に増えたところで痛くもかゆくも……」


 まったく、動じない彼女の言葉はドアを開ける大きな音でさえぎられる。

 その向こうに立っている栗色のショートヘヤー、翡翠色の瞳を持ち、身長はやや低めといった点が特徴の保見翼は、部屋に真中に立つ女の子に続き、壁にあいた大きな穴の方へ目を向けた。


「すーばーるー? この状況を説明してもらってもいいかしら?」

「いや、それはだな……」


 目の前には鬼のような形相を浮かべた翼が仁王立ちしている。

 昴流の穴という穴から汗が噴き出した。


「はっはっはっ人類よ。私はそのような脅しには……」

「わっバカ!」


 女の子の言葉を聞いた翼は、目尻を上げた。


「昴流。こんな女の子を勝手に家に連れ込んだ挙げ句、壁まで壊すなんてどういう了見かしら?」

「えっと……その……簡単にいうとそこの女の子が突然、壁を壊して入ってきました」

「はぁ? この子が?」

「うむ。その通りだ!」


 信じられないといった顔を浮かべている翼を前に女の子は、堂々とした態度で対峙している。


「へーあなたのせいなのね」

「いかにも」


 翼は、ふらふらとした、歩みで女の子の方へ歩み寄る。


「覚悟はいいかしら?」


 その瞬間、空気が凍り付いた。


 昴流は、女の子の冥福を心から祈りながら、足音をたてないようにこっそりと退室する。


 背後から骨が折れる音だの肉がつぶれるような音だのが聞こえてくるが、気にしないほうがいいだろう。

 昴流は目をつむり合掌をしてから階段を下りて行った。


「えっちょっ! 待つのだ人類! 話し合おうではないか! そうだ! 話し合いで……! ぎゃー!」


 気にしない気にしない。


 昴流は自分にそう言い聞かせながら靴を履く。


「姉ちゃん! ちょっと、コンビニ言ってくる!」

「みっ見捨てるな人類!」


 きっと、空耳だろう。きっと、まだ眠いんだ。外の空気を吸うために昴流は家の外に出た。

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