片恋デイズ
授業中に見せる、無邪気な寝顔が好き。
気だるそうに、雨を見つめる横顔が好き。
時々、照れた様にはにかむ笑顔が好き。
君の隣の席は、私の特等席なんです。
●片恋デイズ●
隣の君を、チラリと横目で見る。これはもう、日課となってた。
彼は授業中だというのに、人目も気にせず眠っている。これは当たり前の事になっているので、クラスの誰ひとり、彼を起こそうとしない。というより、彼の眠りの深さは異常なので、起こしたって無駄だと知ってるんだ。
(…可愛い。)
すやすやと寝息をたてる君。無垢な表情は、男の子相手に使うのは失礼だけど、そう思わずにはいられなかった。
彼の名前は、高橋 翔。キレイな顔した男の子。頭脳明晰、運動神経抜群、容姿淡麗と校内じゃ、ちょっとした有名人。
ねぇ、翔くん。知ってますか?君の隣の席をを何人の娘が、欲しがったか。たか。今だって、たくさんの女の子が頬染めて、君の寝顔をチラチラと、見ているんだよ。
そんな君を、こんな近くで見れる私は、幸せ者だね。
窓から入る爽やかな風は、彼の茶金の髪を優しく揺らす。腕を枕にする君は、風を感じたのか、『ん…』と小さな声をもらした。
それと同時に、頬が熱くなってゆくのが、自分でよくわかった。
(なんか、恥ずかしい…。)
私の隣にいる時は、彼は大抵寝てるか、窓の外を眺めてる。まぁ、だから見つめる事ができるんだけど…(見てるのバレないから)。
……翔くん、君の瞳に、私は一度でも映った事がありますか?
君は知ってる?もう私と君が隣になって、1ヶ月近くたつという事を。いつ席替えしたって、おかしくないという事を。
───結局私は、昨日も今日も、明日も明後日も見つめる事しかできないんです。
――――――――――――――
「オイこら、新しい席わかったら早く席着けー。」
そんな担任の声のもと、みんなは騒ぎながら、自分の席へと向かう。
喜びに舞う人や、落胆する人。おもしろい程、笑い声が教室内に響く。
そんな中私は、まるで静かだった。だって正直私は、どこの席だろうと、誰の隣だろうと興味なかった。胸にあるのは、もう君の隣にはいられないという、哀しい事実だけ。
「仕方ない…よね。」
自嘲気味に呟く。まるで心は空っぽ。静かに自分の新しい席へと向かう。
(ここかぁ。前の席と、あまり変わってない様な……)
「あっ!」
「えっ?」
「…ぁ」
突然の声に驚き、横を見れば──
「…翔くん」
─また、隣の席。
─信じられない事実に、私は放心状態になってしまい、ただ呆然と立ちつくした。きっとバカみたいに、ぽかん、と口を開けているに違いない。
「座らないの?」
「え?あ、うん!座るよ!」
正気に戻り、ガタガタと大きな音を出しながら、席に着く。
(ま、まともに目が合ったの初めて…!)
恥ずかしさに、体がほてる。何も言えなくて、ギュッと手で制服の裾を強く握った。
(なんか、なんか言わなきゃ)
私が黙りこんでると、彼が不意に呟いた。
「良かった…、また隣の席で」
「えっ!?」
つい、大声を出してしまった。私の声に、みんなが振りかえる。痛い、視線。どうして自分はこう、マヌケなんだろう。申し訳なさでいっぱいになる。
「…ぁ。ご、ごめん」
「いいよ、謝らなくて」
クスクスと、控え目に彼は笑う。持ち前のかっこよさに惚れてる力も加わって、耳まで赤くなってる気がする。
「俺、嬉しいな。これでまた、しばらくは俺の事見てくれるでしょ?」
「……え?」
(それって…)
「気付いてたよ。授業中、隣から視線感じてたから」
その瞬間、顔に火がついた様に、ボッ!と熱くなった。
(バレてた…!)
恥ずかしさで、うつ向いてしまう。
(どうしよう)
(どうしよう)
(どうしよう)
体がこわばる。君の顔を見れない。罪悪感とか、後悔とか、羞恥心とか、いろんなものが心に押し寄せる。
「っ…ふ……ぅう」
泣きたいわけじゃないのに、勝手に涙が集まってきた。困らせたく、ないのに。泣き虫な私、嫌い。
「えっ?ちょ、ご、ごめん。傷つける様な事言っちゃった?」
私の涙に動揺する彼。
そうじゃ、ないのに。
「ごめ、さない…。ごめんさない…!」
出てくる言葉は、謝罪ばかりで。泣きじゃくる自分が、哀れに思えた。
「…謝ってばかりだね。」
「えっ……」
彼は、右手を私の頬に近づけ、指で目尻の涙を掬った。
「君が謝るなら、僕も謝らなきゃ」
「どう、して?」
問いかけると、彼は優しく微笑んで
「だって僕も、寝たふりしながら、君をいつも見てたから」
確かにそう言った。
「…って、えぇ!?なんでまた泣くの!?」
「ち、違っ…!」
止まった涙が、またあふれてく。止めなきゃ、って思ってるのに。
「う〜ん、困ったなぁ」
「ごめん、さない」
「……また謝った」
(え?)
それは、一瞬のこと。彼の手が、頬を包んで、見る事は叶わないと思ってた瞳が、間近にあって
コツン、
と、額が触れた。
「あ、泣き止んだ?」
もちろん私は、林檎みたいに真っ赤になった。恥ずかしさや、嬉しさや、いろいろなものが混ざって、切ない様な幸せな様な気持ち。
「…こんなところ見られたら、女の子に殺されそう」
「物騒だね。大丈夫、その時はちゃんと守ってあげるから」
そう言って、彼は私の額に、ちゅっ、と触れるだけの優しいキスをした。
「死刑確実かも……」
「ネガティブだなぁ」
悪戯に笑う君。なんだか悔しくて、私は仕返しとばかりに彼の頬に軽くキスをした。
「仕返し」
彼は、いつものポーカーフェイスを壊して、お互い真っ赤になった。
「そんな仕返しなら、いつでも大歓迎だな」
「え?」
「──また1ヶ月、よろしく。できれば、それ以上もよろしくしたいんだけど…ね」
屈託のない笑顔。初めて、正面から見た。
翔くん、知ってる?私今、涙が出そうな程、嬉しいんだよ。
どうやら、思った以上に早く、片想いの日々とさよならできそうです。
やっぱり君の隣は私の特等席
席替えってドキドキしますよね。特に好きな人が隣になると、ずっとこのままがいいって…。今回は、そんな女の子の気持ちを書いてみました。感想等くれると嬉しいです。