有り得ません
手慰み第数弾です。
ちょっぴり、下世話な話になりますので、苦手な方はご注意ください。
龍王国の王の番が懐妊したと耳にし、王の弟である青年は、早速祝いの品を用意して、見舞いにやって来た。
王の番は小柄な美しい人間で、王弟も一目見て恋をしたが、手の届かないと諦めた所に入った朗報で、これを最後に、領地に帰ろうと考えていた。
王の番のいる後宮に着くと、すぐに番が休んでいる寝室に案内され、王弟は訝る事なくそこに立ち入った。
そこには、国王夫妻がいた。
寝台の上に座る女性か、更に小さく見えるほど、この夫妻は大きい。
弟である自分とは、あまりに違う容姿を直視出来ず、王弟はさっと頭をさげた。
定例の挨拶の後、祝いの言葉をかける。
「ご懐妊の報を受け、馳せ参じました。謹んでお祝い申し上げます」
「……うむ」
答える王の声は、重かった。
隣に座る王妃も、憂いの色で番を見る。
当の番も、困惑した顔で俯いていた。
王家一家の、奇妙な反応に戸惑う王弟に、国王は重々しく告げた。
「彼女から生まれる子は、神殿にて育ててもらう事になった」
「は?」
思ってもいない決定だ。
驚いた王弟が、つい声を荒げた。
「陛下の待望の、番とのお子を、何故にっ?」
「私との子が出来るはずが、ないのだ」
苦しげに国王は言い、続けた。
「となると、我が番は、処女懐妊、つまり、獣神のお子を、身籠ったことになるのだ」
低い声で、重々しい言葉が、部屋中に響いた。
何を言っていると、呆然とする王弟の前で、番が顔を赤らめた。
「陛下。処女懐妊ではございません。わたくし元々、既婚者でした」
「ああ、そうだったな。跡継ぎが出来た途端、愛人を作り、蔑ろにした人間に、嫁いでいたな」
「まあ、見事なブーメランですわね、陛下?」
王妃がほほほと笑い、国王が慌てて取り繕う。
それを見ながら幸せそうに微笑む番を見た王弟は、漸く声を絞りだした。
「そんな筈は、ありません。私はっ。番様が入内してから今まで、見守っておりました。幾度も陛下がこの部屋に通っていたのも、陛下が部屋を辞した後、番様が疲れ果てて休まれている事も、存じておりますっ」
「……そうだな。確かに、私は、ほぼ毎日、番の元に通っておるが……実はな、一線は越えてはおらんのだ」
衝撃的な告白だった。
は?
口がその形で固まった王弟に、国王は言う。
「私は龍族で、番は人間族。その体格差と誕生の仕方の差が、臆病にさせていてな。ついつい、種付けを躊躇っていたのだ」
「……」
青ざめた王弟の前で、番が憂いながら顔を伏せた。
「わたくしは、陛下のお子を産めるのならば本望なのですが……」
「いけません。あなたに何かあっては、陛下の心身が崩壊してしまいます。今まで通り、陛下の手管で我慢なさい」
王妃が厳しい顔で嗜め、国王も真面目に頷いた。
「私も、お前の膝の間だけで、満足なのだ。気にすることはない」
「陛下……」
三人で独特な世界を作る国王一家の前で、王弟だけが真実に気づき、衝撃を受けていた。
全く、思わぬ副産物が出来たなと、国王は天井を仰いだ。
だが、それは構わない。
番が死んでしまう未来を、変えられたのだから。
前の人生で、国王は番を死なせてしまった。
産褥死ではない。
それ以前の話だ。
そう、番の体が、国王の一物を受け入れるには、小さ過ぎた。
「陛下……とても、素晴らしいモノをお持ちですね。わたくし、これで死んでも、本望でございます」
番はそう言って儚くなってしまったが、番を死なせたモノを褒められても、喜べなかった。
死に顔が、満足に微笑んでいても、だ。
結果、国王は病み、番の後を追うように息を引き取った。
と思ったら、生き返った。
王妃との子たちの年齢から、番と出会うひと月前だ。
また会えるっ。
国王はついつい、王妃と王子たちの前で、号泣してしまった。
呆れながらも慰めてくれる家族にも、前の人生では苦労をかけただろう。
だから決めた。
今回は、人間が開発した閨の手管を覚え、番とは一線を越えないと。
見舞いの品を置いて、ふらふらと部屋を辞す王弟の背を、国王は嫉妬混じりに見送っていた。
弟も、番に懸想していたのは知っていたが、まさか、自分が通った後、意識のない女をこっそりモノにしているとは、思わなかった。
だが、これで良かった。
恐らくは、この巻き戻り、番を憐れんだ獣神の計らいだ。
対価として、弟と番の子を、神の御許に捧げよう。
たまーに、可笑しな話が、頭に浮かぶのです。
ご容赦ください。
P.S この世界は、人間の胎と龍族の胎で、子供の生まれ方が違います。
余り前例がないので、国王はこれも危惧していますが、無事子供は生まれるでしょう。




