第一部 第四章
「遅くなりましたっ! 」
息を切らせながら十八歳くらいの青年が走りこんできた。
金髪碧眼で美男子タイプだ。
バンと同じく革製の鎧をつけていて、細身の剣をしていた。
「ああ、新メンバーのケインです。遅れたら駄目だと言っただろうがっ! 」
そう、バンが俺に紹介した後に、ケインに怒鳴った。
「すいません。場所を間違えました」
ケインは恐縮したように頭を下げながら話す。
だが、バンは殴らなかった。
話が違うな。
鉄拳制裁なら殴るはずだが。
そう思った。
「こいつが新しく同郷から頼まれて入ったバンです。今は仮ですが、慣れたら本採用の予定で」
そうバンが苦笑しながら話す。
頭をぐりぐりしながらこちらに突き出して紹介するところは体育会系なんだろうけど、確かに殴らない。
<ナックル>じゃなかったのか?
「ああ、殴るって噂の事ですか? 」
サザーランドが爆笑した。
「ほら、あんたがこぶしで語るとか言って、前に新人さんとギルドの酒場で喧嘩するから」
そうサーラが苦笑した。
「ああ、悪い噂話を聞いてたんですね」
そうバンが頭を掻いた。
「話が大げさになってるだけですよ」
そうサザーランドがもう一度爆笑した。
ヨーゼフとヴィクターも笑っていた。
雰囲気もいい。
だが、俺はそれで焦ってた。
「ええと」
「頑張ってくださいね」
そう俺の困惑を他所にアリアーネ嬢が微笑んだ。
またしても、優しい微笑みに三割くらい憐れみが入っている
「あぅ」
俺は動揺していた。
と言うのは、やはり、この場合はやばい話が多い。
最初からヤバい噂を聞いていて、実際に入ってみると実は噂と違って良いグループだったって場合だと、いつもの俺の場合には本当に本当にヤバいのが中から出てくる。
いつも、このパターンなのだ。
そして、アリアーネ嬢が困惑している俺に憐れみが入ってて頑張ってくださいねと言うときは大体、命がけになるときが多い。
恐らく、内々で中身をそれとなく知っていてるんだろうな。
その情報を欲しい所だが、先入観を与えない為に不確実な情報は渡さないようになっているとかで……。
でも、そのアリアーネ嬢の憐みの微笑みの場合はいつもそんなんばかりなんだから、不確実と言えるのか?
やっぱり、俺は早く退職した方が良いな。
マジでそう思った。
こんな話ばかり来る。
「ああ、アリアーネ嬢はやっぱりいいなぁ」
「あんた、ギルドの窓口の時に散々デートにあの人を誘って問題になってたじゃない」
「そうそう、それで悪い噂になった事もあるんだから、気を付けてもらわないと」
バンが去っていくアリアーネ嬢を見ながらの悲しそうな声でぼやくとサーラとヴィクターの注意が続いた。
だが、俺は別の事で頭がいっぱいになっていた。
前は仲間に悪魔が居たり、近隣の国の厄介な奴らが浸透してたりとか言うのだった。
これもその手なのだろうか。
そう思って俺はそれどころじゃなかった。
大体、アチアチカップルのアニサキスなんだから、アチアチカップルのクールダウンとか、内部の恋敵同志の陰湿な神経戦とかそういうのを専門にやっているテンフィンガーの仲間の<トゥルーラブ>とか言う俺と同じくらい恥ずかしいコードネームの奴の方が楽じゃないかと思う。
まあ、前世で刺されたけど、トゥルーラブは恋敵の間に入って、必殺の相談男で恋敵の相談を受けながら、上手いこと冒険者の女性を食いまくるとか言う噂だった。
まあ、俺みたいにモブの地味系だったのは無理かなぁ。
ちなみに相談男とは、女の子の相談に乗って、理解者面して上手いこと宜しくやる奴の事である。
実際、上手い奴は凄くそういうのが上手いらしい。
まあ、前世のチャラい系の奴らも相手を落とすときはそれを使ってたなと思い出した。
意外と参っている時の人間って落ちやすいのだ。
反面、そうやって転々と男を変える相談女って地雷もあるので危険はあったりする。




