第一部 第十一話
「えええええ? どういう事? 」
俺が動揺していた。
聞いていた話に無いし。
「殿下は隣国のシュレンベルク公国の王子様なのです。ただ、陛下と殿下の母君の関係があまり宜しくなくてお別れになられて、殿下の母が豪胆なお方だった為に、殿下を子供の時に我が子だからと連れ去ってしまったのです。陛下は後を追おうとしましたが、現在の王太子である陛下の弟君のヴェンツエル公が反対なさったので追えず。それで、このような事に……」
「いやいや、でも。ええええ? バンさんの現在の本名って? 」
俺がケインの言葉に動揺して聞いた。
「バン・モーゼス・クラメルです。クラメル伯爵家の御曹司です」
サーラがそう話す。
「伯爵? まさか、あのクラメル伯爵家? 嘘だろ? クラメル伯爵家と言えば、ギルドキングダムの東部の名門貴族で、隣国の小国であるシュレンベルク公国の領土に一番近い領地を持っている、あのクラメル伯爵家なの? 」
「いやいや、大したことじゃないですよ」
そうバンが笑った。
「なんで名門貴族の後継者がこんな冒険者を? だって、ギルドキングダムはダンジョンが多くて、どの貴族もその収入で今はウハウハのはず。特にクラメル伯爵家は富裕で知られているし」
「祖父と母が冒険者の気持ちを知る為に、冒険者をしろって言うんですよ。うちの伯爵家では昔からですが……。それに、まだ叔父がいますし、祖父の後を継ぐのは叔父で良いと思ってます。俺はだから別にそういうのに関係ないですから」
そうバンが爽やかに笑った。
最初のわんぱく馬鹿のように見えた爽やかな笑いが高貴に急に見えるのだから、やはり貴族ってだけで違って見えるな。
困ったもんである。
俺は騎士階級の末席からの冒険者だから、まぶしく見えてしまうのは庶民出身だからかな?
まあ、騎士だから正確には庶民では無いんだけど。
貴族で、隣国の公国の王子様か。
それだと、この周りの同郷のサーラやサザーランド達は実は護衛という事か?
それなら、妙に腕が立つのも分かる。
「シュレンベルク公国の陛下の穏健路線と弟君の現王太子のヴェンツエル公の積極路線とが対立しまして、陛下が弟君を廃嫡して是非殿下に後を継いでほしいとおっしゃっているのです」
「いや、母が大暴れして、子供の俺を抱えて騎馬で実家に逃げ帰ったのに、今更、俺がそんなとこに行って跡取りですは無いだろうに。そもそも、俺はそういう高貴な地位には向いてないだろ。緻密に物を考えるより、ぱっとやっちゃう方だしな」
そうバンが苦笑した。
それに思わず頷いてしまいそうな俺がいた。
ちらと見たら、ケインもそれを肯定するような目の動きだ。
さっき、落胆してたのは殿下の王としての資質を見ていたのかもしれない。
とはいえ、そうは言っても快活さはあるし、側近がしっかりしていたら意外と意外なのではと思う。
少なくとも、貴族特有のふんぞり返りは無いし、気さくな性格だし。
「でも、陛下は殿下の快活さこそ、公国を救うと切望なさってます」
「いや、器じゃないし」
そうバンが即答した。
欲が無いのかな。
目の動きではそれは本音に見えた。
「ん? 」
そこで殺気立った集団がこちらに向かっていると言うコウモリの話を思い出した。
「どうしました? 」
サザーランドが目敏く聞いてきた。
「いや、10人くらいの殺気立った手練れが後を追いかけてきてるみたいなんだけど」
そう俺が呟いたら皆が一瞬にして殺気立った。
え?
刺客?
俺が凄く嫌な予感がした。




