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プロローグ

そういや悪役令嬢モノって乙女ゲームの世界観が多いけど、アニメはあまり無いイメージしますよね⋯。

原作本編で悪女として登場するキャラを地雷系にしてみました。

※今作の主人公は悪女として登場するキャラであって、原作本編の主人公として転生するキャラはヒロインです。

 桜が咲き春の息吹が宿るこの入学式で、一人の女子高生ははっとする。視界には紺色のブレザーを身にまとった腕、色白ながらも血色の良い手、そして風で揺れる淡いピンク色の髪に女子高生は思い出した。


「(嘘⋯これ『サクメブ』の世界で、私主人公の桜井結月(さくらい ゆづき)に転生したんだ!)」


 女子高生⋯もとい結月は今自分が生きている世界が人気アニメ『サクメブ』こと『サクラが芽吹く時』の世界であること、そして自分はサクメブの主人公である桜井結月として生まれた。サクメブは主に女性達から定評のある恋愛アニメ。主人公達が通う『私立聖華高等学校』では自分の生まれ持つ『花』の力を育成し、闇の力で世界の支配を目論む魔族を倒すための冒険を目的とした魔法学校。殆どは向日葵(ヒマワリ)やチューリップなどが多いが、主人公は儚い美しさと破邪の力を秘めることで希少価値の高い『桜』の力を持ち、主人公と共に成長し、時と場合によっては主人公に片想いする登場人物の男性達や友人達と成長する青春×恋愛アニメだ。だが勿論そんな愛される主人公もいれば、嫌われる悪女も存在する。


「(あ、あれって悪女として登場する藤原紫(ふじわらゆかり)⋯?え、ゆーかりん!?)」


 アイドルやメイドカフェの店員のような可愛いらしいあだ名で呼ばれた女子高生、藤原紫こそがサクメブで主人公のライバルとして立ちはだかる悪女キャラだ。

艶のある黒に紫色のインナーカラーを含んだ髪を紫の細いリボンでハーフツインテールにまとめる姿、耳にはバチバチの銀色のピアス、そして華美でないけれどクールな印象を受ける黒いチョーカーという制服の上から地雷系の格好をしている。

アニメ本編では紫は我儘(わがまま)でメンヘラで極悪非道な令嬢というテンプレ。なので初登場時はあまり好印象でなく、寧ろ視聴者やファンに嫌われているのだ。

『ファッションメンヘラなヒドイン』『嫉妬と劣等感を煮詰めた女』『主人公だけでなく気に入らない奴を追い込ませるゴミカス』など散々な言われよう。けれど結月は前世でそんな紫のことが推しとして好きだった。


 理由はまず見た目がドストライクだったこと、そして非道な性格になったのには訳があったからだ。紫があのような性格になったのは両親が毒親だったからだ。常に完璧であることを望み、それ以外のことは興味を示すことなく紫は愛を知らずに育った。使用人は両親に媚びを売る者ばかりで紫を見下す人間が多く、時には使用人に嫌がらせされたこともある。そんな彼女がなぜ主人公の前に立ちはだかったのは、彼女の婚約者が原因。紫の婚約者でもあり、サクメブの登場人物として女性視聴者から絶大な人気を誇るキャラ⋯菖蒲崎涼真(あやめざきりょうま)は主人公と関わっていくにつれて、メンヘラな婚約者よりも魅力的に感じていたことが火種となったからだ。

主人公といえど他の女に目移りする婚約者よりも、主人公に逆恨みして嫌がらせをする悪女の方がザマァされるテンプレが結月は嫌いだった。


 当時は恋愛漫画やアニメはイケメンな男にキュンキュンして、性格悪く描かれるライバルはさっさと地獄に落ちろみたいな展開は子供の時にはウケていたが⋯冷静に考えてみると婚約者がいるにも関わらず、他の女を好きになった男の方が悪いし、そんな事実を知って恨む紫の気持ちも分からなくもない。唯一自分を見てくれる人を奪われる辛さというカタルシスに共感したからだ。


「(⋯もしこの世界がサクメブにとって現実なら、ゆーかりんのことを幸せにしたい⋯!)」


結月がサクメブを好きになったのは、紫という存在がいたからこそだ。

するとタイムリーなことに、視線の先にいる紫は耳に留めたピアスの一部を落としていることに気づかず歩き去ってしまいそうになる。これは紫に話せるチャンスだ、と結月はすぐに駆け寄った。


「あの、これ落としましたよ。」


結月に声をかけられ振り返った紫の顔に内心喜びで舞い上がってしまいそうなのを必死に抑える。顔が良いと思うほどにパーツは整っている、けれど警戒しているような厳しい顔つき。推しにそんな表情をされてショックな反面、認知されたら嬉しいというオタク度が増しているような気がする。


「⋯ありがと。」


紫は納得いかない表情をするも、拾ってくれた相手に対して感謝の言葉を述べる姿に結月はキャパオーバーしてしまいそうだ。紫は銀色のピアスを留め直すと結月に問いただす。


「アンタさ⋯何でアタシに話しかけてきたの?他の奴らならアタシと関わりたくなくて無視するのに」


どうやら彼女は他の人々から距離を置かれる理由に気づいているみたいだが、目はとても悲しそうだ。本当は仲良くしたい、けれど両親のように気分によっては自分のことを見限るか見下すだろうと疑心暗鬼になってしまう。だから自分は浮いた存在になる、そう思っても仕方がないだろう。


「⋯私、貴方の友達になりたいんです。皆が貴方と仲良くなりたくなかったとしても、私は貴方と仲良くなりたいんです。」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯。」

「私、桜井結月です。良ければこれからもよろしくお願いします!」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯。」


自己紹介しても静かにじっと見つめる様子に気まずい空気が流れた気がした。自分語りして引かれたのか?良い子ちゃんぶっててキモいと思われてないか?どうせ皆そう言ってすぐ離れるんだろと思われてるのかと顔を上げれないでいると⋯


「⋯紫。」

「え?」

「⋯藤原紫だけど。」


顔を上げてみると紫はそっぽを向いていた。顔がほんのりと赤く染まっていて中々目を合わせてこない、けれど嫌そうな表情はしていなかった。


「⋯アタシの友達になったら苦労するよ。」

「絶対苦労だなんて思いません!」

「面倒くさい性格だよ。」

「紫さんが面倒くさいなんて思ったこと無いです!」

「⋯裏切ったら恨むようなメンヘラだよ。」

「裏切らないしそれだけ一途に想う紫さんは好きです!」

「⋯あっそ。」


表情は変わらずポーカーフェイス、でもどこか嬉しそうだった。

これから紫と友達になって、友達として彼女を支えて、彼女を幸せにする近道を私が作らなきゃと結月はそう誓った。

だが、ある女子高生が数カ月後に現るまでは結月はその女子高生によって悲劇を生むことを知らなかった⋯⋯。










「あんたも転生者のくせに、なに藤原紫のことを幸せにしようとすんの?」

「主人公になる気がないなら、私が主人公になっても文句ないよね?」

「涼真君や皆やキョウヤ様と関わったら許さないから。」

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