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【短編小説】いらかならべ

掲載日:2025/12/18

「地上四階を走る地下鉄がある」

 それに乗ったらクソをして寝ろ。

 別にクソはしなくたっていいし、歯を研く必要もない。お前の人生だ。

 そう言うと電話は切れた。

 最初から繋がっていなかったのかも知れない。

 おれは吸い殻を投げ捨てる。

 馬鹿な女子高生が白杖の中年女にぶつかって舌打ちをした。

 チッチッチ。

 どちらも死ぬしか無いとピーターシンガーは言った。



 夜。

 地上4階を走る地下鉄。

 投げやりに塗り潰された黒い空そのものがもう一つの天井となり、おれたちはその巨大なドームの下で生活している。

 つまりおれたちは地下鉄以下の暮らしだ。

 地下鉄から投げ捨てられるゴミが主な食料の奴らと共存している。

 白いワニだとかに似ている。

 知らないならそれでいい。


 内山の手を覆っていた巨大なドームは崩れた。

 だからあの空はドームの天井じゃない。

 本物の空はしばらく見ていない。

 だが都会の人間は星なんて見ない。太陽も同じだ。最後に降った雨を覚えてる奴はたぶんいない。

 星や太陽や雨はテレビの中だけのものだ。

 地方から来た人間は最初こそ文句を言うが次第に星の無い空に慣れていく。

 雨の降らない都会で乾いていく。



 俺もそうだ。

 今だって俺の頭上、はるか高く架けられた高速道路を見上げて煙草を吸っている。

 幾重にも架けられた道路はどこに繋がっているのかも分からない。

 あのうち何本かは物流専用だ。

 ほかの何本かは政府専用だ。

 残ったやつが民間用だ。金を払えば崩壊しないやつを使える。

 そう言った傍からボロい高速が崩れる。

 そいつは流れ星か?

 だがそれは誰の願いも叶えない。

 

 高く並んだビルディング。

 違法な増改築抜きの合憲ばかりだ。

 今どきはコルビジュエが流行りらしい。ガウディ建築はとうの昔に廃れた。

 複雑に絡み合った高速道路の下すれすれまで伸びたビルディングの上で日本家屋が瓦を寄せ合っている。

 強力わかもとの広告が映える。

 無駄に高く伸ばしたうだつには誰がどうやって描いたのか鮮やかなグラフィティがある。

 光化学スモッグは霧より光を反射する。



 煙草を投げ捨てて革靴の底で踏む。

 スーツの襟を引く。

 今日も老人相手に虚無を売る。

 自分が何を仕入れて何を売っているのか把握しようと思った事もあった。

 だがもうとっくの昔にやめちまった。

 奴らはどうせ欲の皮が突っ張った死にぞこないだ。

 六文銭以上は持っていたって無駄だ。

 おれもそいつらを相手にするクソだ。

 六文銭すら持ち合わせちゃいないだろう。


 仕事は終わりだ。

 ジジイたちが死んだからだ。

 流れ星の屑に当たった。そいつはジジイたちの願いだった気もする。

 ピンピンコロリ。最後は即死だ。

 だから今日の仕事はもうない。

 見た目だけは綺麗なオフィスビルに戻る。

 仕事場のあるフロアに向かう前にトイレに向かう。

 本当なら女子トイレで一発カマしてから戻るつもりだった。

 しかし今は人がいてそれも無理だ。



 仕方なく男子トイレに入る。

 大便器のある個室は広く快適だ。

 おれはズボンを下ろす訳だ。

 怒張したものを惰性で弄んでいると誰かがトイレに入ってきた。

 そして入口のドアに鍵をかけている。

 おれは個室ドアの隙間から見る。

 入ってきたのはおれの同僚でやたら人気のある女だった。

 もう一人は俺と同じジムに通う男だ。

 おれはその男が嫌いだった。

 そいつがおれのことを嫌いだからだ。


 二人はまるで自分たちの部屋かホテルにでもいるかのように寛いだ雰囲気だった。

 今にも始まろうとしている。

 美術館で「草上の昼食」を見ているような気分になる。

 それも死ぬ直前のゴッホのタッチでだ。

 冗談じゃない。

 おれは音を立てずに動画を撮る方法を考えていた。

 誰かに売り飛ばすか脅迫で小遣い稼ぎをするかインターネットにアップするか。

 怒張がすっかり静まっていく。

 次の仕事はこれにしようか。



 だが目の前で繰り広げられるセックスはつまらない。

 カット割りも無いし盛り上がりも無い。

 何よりおれの嫌いな男のセックスだ。

 地上で一番クソなセックスだろう。

 

 おれは馬鹿馬鹿しくなってそのままクソを垂れた。

 4速で発進するカブみたいな音がした。

 パンパン。

 セックスの音が止まる。

 腰とケツのぶつかり稽古が止まったんだ。

 おれはケツを拭いて水を流した。

 個室を出ると誰もいない。

 おれは手を洗ってトイレを出た。

 もしかしたら流れ星に頭をやられたのはおれかも知れない。



 急に色んな事が馬鹿馬鹿しくなって赤ひげを吸いたくなった。

 河川敷で摘めば良いだろう。

 犬かジジイのションベンを洗い流せば使い物になる。

 インターネットにさっきの動画をアップしてから同僚の女とジムの男にも動画を送り付けた。

 5秒後にあった着信は昔の仕事仲間の女からだった。

 名前はろくに覚えていない。

 おれは携帯をポケットに押し込んだ。




 赤ひげが吸いたい。

 吐いたって構わない。

 どいつもこいつもクソだ。

 お前もクソだ。

 瓦を赤ひげの吸殻で飾ってやるのさ。

 夢みたいだろ。

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