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エクスポージャー

 深夜の作戦室。モニターに映し出されたリアルタイムの通信ログ、そして解析された動画フレーム。沢渡のコードが画面を縦横に走る。


「これが“最後の鍵”です」

 沢渡は静かに言った。


「匿名都市事件と今回の一連の配信、共通するのは“音”と“光”。だが、決定的な違いは“同期”だった」


 篠原が画面に顔を寄せる。「同期?」


「映像の輝度変化と、特定周波数のサウンドがミリ秒単位で一致している。これは偶然じゃない。意図的な刺激によって、人間の潜在意識に反応を植え付けるためのものです。しかも——」


 沢渡は数式のようなスクリプトをスクロールさせた。


「一人ひとりのプロファイルに基づいて内容が微調整されていた。つまり、“個人適応型サブリミナル”」


「そんなのが可能なのかよ」と真鍋。


「ヴェルカスタンの情報技術が関与しているとすれば、納得できる」と高城。

「例の『匿名都市事件』も、同じように“感情の誘導”が行われていたが……今回のは一段階、深い。完全な“操作”だ」


 夜が明ける頃、沢渡はオンラインの暗号化チャネルで「カレイド」の正体に迫っていた。


 会話を交わすたびに感じる違和感。

 言葉の選び方、反応速度、文体の揺れ——それら全てが、「人間」ではないと彼に確信を持たせた。


 いや、正確には「一人」ではない。


「発信は複数拠点。自動応答と人間の応対が交互に挟まっている。これは——オペレーション体制だ」


 カレイドは単なる“人気動画投稿者”などではなく、正体不明の情報操作チームによる“仮面”に過ぎなかった。


「この構造、間違いなく“プロ”の仕事です。しかも、政府機関を相手にするレベルの」


           *


 第零分隊が拠点を突き止めたのは、都内のとあるスタジオだった。

 外観は民間の動画制作会社のように偽装されている。


 しかし内部には、専用の編集ブース、高速回線、そして人物を特定するための観察ログ——個人情報の宝庫が整備されていた。


 隊員たちは素早く制圧に動いた。


 篠原が警備システムをハック。

 真鍋と矢吹が突入し、無人の端末を素早く封鎖。


 残されていたのは、退避用に仕込まれた自動消去プログラム。


「間に合った……ギリギリでな」


           *


 作戦の終了から三日後。

 政府は“映像内に含まれていた意図的な編集”について、限定的ながらも報告を発表。


 ただし、「個人への操作の可能性」については、あくまで技術的理論として留めた。


 第零分隊の名は出されることはない。

 しかし、メンバーは皆、何が起きていたかを知っていた。


 カレイドは“仮面”だった。

 そしてその仮面の背後には、冷酷で静かな“思考”があった。


            *


 沢渡は作戦室の暗がりで一人、仮想空間に再びアクセスしていた。


 アクセスログの痕跡、すでに消去されたはずの微かな残響。

 そこに、たった一つ、見逃されていたコードが残っていた。


“INCOGNITO PROTOCOL : STAGE II READY”


 沢渡は深く息を吐き、モニターを閉じた。


「これは……まだ終わってない」


(終わり)

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