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インビジブル・トリガー

「これはもう、“映像”じゃない」


 沢渡圭吾の口から出た言葉に、部屋の空気が一瞬止まった。


 第零分隊の作戦会議室。スクリーンにはカレイドの配信映像が解析レイヤーごとに分解されて表示されている。音声の帯域、フレーム単位の動き、視覚信号に対する反応パターン――ありとあらゆる情報が数値として表れていた。


「わかったのは三つ」沢渡が静かに語り出した。


「まず、“映像の中に意図的に仕込まれた刺激”がある。人間の視覚では明確に識別できないが、脳波に直接反応が出る。しかも、見た者の属性に応じて異なる行動誘導パターンが設計されてる」


「属性って?」矢吹が訊く。


「年齢、性別、関心ジャンル、SNSでの発言履歴、さらには精神的なストレス状態まで。個人の傾向に合わせて誘導する映像構成になっている。しかも自動生成されてる節がある」


「AIが?」篠原が小さく眉をひそめた。


「おそらくは。しかも、映像編集の段階で挿入されている“干渉ノイズ”が、視覚皮質に短時間で作用している。通常の映像とは異なる刺激設計になってる。これは実験段階の技術じゃない」


 沈黙が流れる。


「……つまり、偶然じゃない。仕組まれた“実験”だ」


 矢吹がぽつりと呟く。


「誰が、何のために?」


 その問いに、沢渡はPCの画面を切り替えた。そこには過去の複数の“不可解な映像事件”の記録が並んでいた。


「少し前に俺たちが対応した“匿名都市事件”。あのときも、音を通じて人々の行動を操る技術が使われていた。表向きは事故として処理されたが、内部では誰かが“人間の無意識”を制御する技術を試していたとされている」


「……関係あるってことか」


「間違いなく、同じ系譜にある。断定はできないが、これほどの精度と影響範囲を持つ誘導技術を運用できるのは、国家レベルの後ろ盾か、もしくは――その中枢から脱落した者たちだ」


 沢渡は次の画面を開いた。


 そこに表示されていたのは一つの組織名だった。


 KAIROSカイロス


「我々の記録には明確な存在証拠はない。だが、過去の幾つかのテロ未遂、情報操作、社会実験の背後に“仮説として”その名が挙げられている。実在を裏付ける証拠は、今まで一つも出ていない」


「なのに、そこまで言うのはなぜ?」


「ある研究会の存在だ。“行動技術研究会”――かつて国の委託で人間行動の予測と誘導に関する研究を行っていた民間合同組織。2009年に解散しているが、当時のメンバーの一部が失踪している」


「ヴェルカスタン経由で技術流出したという噂もあったわね」篠原が静かに言った。


「その研究会が培っていた技術――人間の判断や行動を“コード化”する理論体系。それを極限まで実装したのが、“サブリミナル・コード”の正体だと考えられる」


「つまり……KAIROSは、あの研究会の亡霊というわけか」矢吹が呟いた。


 沢渡は頷いた。「ただし、亡霊にしては動きが鮮やか過ぎる。これは意志ある実行組織の仕事だ。しかも今、この国で起きている」


「標的は?」


「若者。思想を持たない、しかしエネルギーを持った集団。その“行動衝動”を誘導することで、社会そのものを揺るがすつもりなのかもしれない」


「革命じゃなく、“連鎖的な錯乱”。この手口、まさに……」


 誰も言葉を続けなかった。


 スクリーンには再び、カレイドの映像が映し出されていた。幾何学模様がゆっくりと回転する。


 その映像の奥には、確かに“何か”がいた。

 目には見えないが、無意識にまで侵入し、価値観を静かに揺らす存在が。


 KAIROS。時間を計る者、そして世界を歪める者。


(続く)


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