第9話 内政ヒーロー“ズ”
バサーニオが仲間になったことで、ジャングル村の開拓はさらに勢いを増した。ウイルはコーデの【鑑定】で得た情報を基に、バサーニオの商才を最大限に活かした。
「バサーニオ、この村の近くに【鉄鉱山】が見つかった。だが、採掘や精錬の技術が足りない」
ウイルの言葉に、バサーニオは目を輝かせた。
「それなら鉱山労働者と鍛冶職人を雇い入れましょう。ドワーフ族の出番です。彼らが持つ【採掘】や【鍛冶】のスキルは、我々の大きな財産になります」
バサーニオの提案に従い、ウイルは周囲の村や都市で、戦争のために故郷を失った元労働者や職人のドワーフたちを安価で雇い入れた。彼らは、食料と住居が提供されるだけで、喜んでジャングル村にやって来た。
ウイルはまず、集まったドワーフたちに【水魔法】で水の道を作り、水の運搬を不要にした。これにより、作業効率は飛躍的に向上した。次に、コーデの【鑑定】で【採掘】スキルの高い者をリーダーに任命し、彼らの指示のもと、採掘は計画的に進められた。
そして、採掘した鉄鉱石を製鉄所まで運ぶため、ウイルは【土魔法】で簡易的なトロッコのレールを敷設した。【風魔法】の飛行で物資を運んだ。
「すごい! こんなに効率よく作業が進むなんて!」
バサーニオは驚きを隠せない。帝都の商業ギルドで働いていた頃も、これほど迅速に事業が進むことはなかった。
製鉄所では、熟練のドワーフたちが、採掘された鉄を使って様々な道具を作り出した。
「ウイル様、この鉄で、もっと頑丈な農具を作ってはどうでしょう?」
バサーニオの提案に、ウイルは頷いた。
「それだけじゃない。この村の周囲には、多くの魔物が生息している。その魔物たちの素材と鉄を組み合わせれば、より高性能な武器や防具が作れるはずだ」
ウイルの言葉に、バサーニオと黒騎士は目を見開いた。
「魔物素材と鉄の組み合わせ! それは、帝国のどの武器よりも強力になるかもしれません!」
黒騎士が興奮気味に言った。
完成した武器は、ジャングル村の自警団に配備された。これにより、自警団の戦闘力は格段に向上し、村の治安はさらに安定した。余った武器や防具は、バサーニオの商才によって、帝国の主要都市へと高値で売られていった。
「ウイル様、今日の売り上げです! これで、さらに村の発展に投資できます!」
バサーニオは満面の笑みでウイルに報告した。彼の目には、もはや過去の絶望の影はなかった。
ジャングル村は、わずか数ヶ月で、帝国の辺境にある危険な村から、新たな産業の中心地へと変貌を遂げた。ウイルの内政チートは、とどまるところを知らなかった。
ジャングル村の急速な発展は、帝国内でも噂になっていた。特に、村で作られる高品質な武器や防具は、帝都の商人たちの間で高値で取引されていた。
「ウイル様、帝都の有力な貴族や商人たちが、ジャングル村に視察を申し出てきています」
バサーニオが、数枚の書簡をウイルに差し出した。
「向こうからやってくるとは好都合だな。ちょうど、次の事業を考えていたところだ」
ウイルは不敵に笑う。次に彼が目をつけたのはジャングル村の近くに存在する危険なダンジョンだった。強力な魔物が多数生息し、探索に成功した者はほとんどいないとされる場所だ。実はジャングル村の開拓に真剣で、ダンジョン攻略会社の方は赤字を垂れ流していた。ダンジョン探索に送ったA班もB班も怪我をして治療中で、ダンジョン攻略どころではなかった。
「今度こそダンジョンを攻略し、そこで得られる素材や魔石を独占する。それが、次の事業だ」
ウイルの言葉に、バサーニオは驚きを隠せない。
「ダンジョン攻略ですか? 危険すぎます。それに、莫大な資金が必要です」
ウイルは頷く。
「だからこそ、外部の出資者を募る。彼らは、俺たちの持つ『情報』と『技術』に金を出すことになる」
ウイルとバサーニオは、視察に訪れた貴族や商人たちをジャングル村の中央に集めた。
「皆さま、本日はようこそジャングル村へ。ご存知の通り、この村はわずか数ヶ月で、辺境の地から活気あふれる村へと変貌を遂げました」
ウイルがそう言うと、貴族や商人たちの顔に期待の色が浮かんだ。
「私たちは、次に『ダンジョン攻略会社』を再始動します。出資していただければ、そこから得られる利益を分配させていただきます」
ウイルの言葉に、会場は静まり返る。誰もがダンジョンの危険性を知っていたからだ。
「この村の近くにある、通称『絶望の迷宮』あれは、手を出してはならない場所だ」
ある貴族が眉をひそめて言った。しかし、ウイルは意に介さない。
「その『絶望の迷宮』の攻略が、私たちの次の仕事です」
そう言って、ウイルはバサーニオに合図を送った。バサーニオは、事前に用意していた精巧なダンジョンの地図を広げた。
「この地図は、私たちが独自に調査し作成したものです。そして、こちらをご覧ください」
バサーニオは、さらに数枚の絵を取り出した。そこには、ダンジョンの各階層に生息する魔物の生態や、それらを効率的に倒すための戦術が詳細に描かれていた。
「これだけの情報を、どうやって……?」
貴族たちは、その情報の緻密さに言葉を失っていた。それはもちろん、コーデの【鑑定】スキルと、黒騎士による実地調査の賜物だ。
「我々は、攻略に必要な人材も確保しています。優れた冒険者たち、そして、このジャングル村製の武器と防具が彼らの命を守るでしょう」
ウイルの言葉に、貴族や商人たちは、ダンジョン攻略が単なる無謀な賭けではないと悟った。それは、詳細な計画に基づいた、勝算のある事業なのだ。
そして、ウイルが最後に切り札を出した。
「出資してくださる方には、この村の最新技術である光属性の電気を使った照明を、ご自宅に設置させていただきます」
その言葉に、会場の雰囲気は一変した。電気照明は、魔法使いの限られた者しか扱えない高級品で、一般には流通していない。それが手に入ると知れば、話は別だ。
「出資しよう!」
「私も頼む!」
次々と出資を申し出る貴族や商人たち。ウイルとバサーニオは、その場で契約を交わし、巨額の資金を集めることに成功した。
集まった資金を元に、ウイルは優秀な冒険者たちを雇い、ダンジョン攻略を開始した。もちろん、その中には、黒騎士も冒険者として加わっていた。
「姫様、【鑑定】スキルで、どの冒険者がどの階層を担当すべきか、適材適所に配置しましょう」
黒騎士の言葉に、ウイルは満足そうに頷く。
冒険者たちは、ジャングル村製の高性能な武器と防具を身につけ、【鑑定】スキルで選定された最適なパーティーを組み、ダンジョンへと挑んでいく。
ダンジョン内は、事前に渡された詳細な地図により迷うことなく進むことができた。また、ウイルが【光魔法】で作り出した魔石を光源として配置することで、視界の悪い場所でも安全に探索を進められた。
そして、各階層のボスを倒すたびに、ウイルは【鑑定】スキルで得た情報に基づき、ボスが落とすアイテムや素材を効率よく回収した。
こうして、ウイルのダンジョン攻略会社は、圧倒的なスピードで『絶望の迷宮』を攻略し、その名を帝国内に轟かせることになった。ウイルとバサーニオは莫大な利益を手に入れ、ジャングル村は帝国の経済を揺るがすほどの巨大な都市へと成長していくのだった。
ウイルが帝国に移住して1年後。ジャングル村の村長とウイル商会の社長の座をバサーニオに一任し、ジャングル村の護衛を自警団でやってもらい、ウイルとコーデ、黒騎士はインペリウム学園へと舞い戻ってきた。ジャングル村は観光地とダンジョン攻略の二つの役割を今後とも、果たしていく予定。
大金を手にしたウイルは食糧を王国へ送り、帝国の爵位を金で買い、インペリウム学園の2年生として編入する。コーデと黒騎士は社会見学を終えて、2年生から再スタート。
落ちこぼれ姫と呼ばれたコーデは村の開拓をおこなった第一人者として持て囃され、インペリウムで第一皇子、第二皇子、第三皇子の熾烈な政治争いが幕開ける。




