表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/13

第8話 黒騎士との対話

「まさか、黒騎士さんの素顔がこんなに美しいとは」


 ウイルの言葉に、黒騎士は照れたように微笑んだ。


「お恥ずかしながら。姫様には『素顔を見せてもいいのは、心から信頼できる者だけ』と教育されてきましたから」


 その言葉に、ウイルは真剣な表情で頷く。


「ありがとう。信頼してくれて。村人を含めて、全員を信頼してくれて」


 二人の間に、静かで温かい空気が流れる。周囲の村人たちは、模擬戦の興奮から一転、黒騎士の素顔に目を奪われていた。


「すごい美人だ!」「まるで姫様の姉妹のようだ」「こんな人が俺たちを守ってくれるのか」


 様々な声が聞こえてくる。中には、興奮しすぎて鼻血を出す者までいた。黒騎士はそんな村人たちの様子を見て、困ったように眉を下げた。


「ウイル殿、少しだけ離れて話しませんか」


 周囲の熱気に耐えかね、ウイルを誘う。二人は、さらに奥の、人目のつかない場所へと移動した。


「さっきの試合、わざと負けましたね?」


 黒騎士は、誰もいないことを確認してから、ウイルに尋ねた。ウイルは少し驚いた表情を見せた後、静かに頷いた。


「どうして分かった?」


「私はずっと姫様の護衛をしてきました。そして、帝国の勇者クラス、四天王クラスの者たちと何度も模擬戦を重ねてきました。ウイル殿の動きは、とても洗練されていました。そして、何より――」


 黒騎士は、ウイルの目を見てはっきりと告げる。


「貴方は、木剣が折れる直前まで、力を温存していました。もし本気で戦っていたなら、私の攻撃はもっと簡単に捌けていたはず。そして、わざと木剣を折らせることで、私の勝利を確実なものにした」


 ウイルは苦笑いしながら頭を掻いた。


「やっぱりバレたか。さすがは黒騎士さんだ」


「どうしてです? 勝つ気があるなら、いつでも勝てたはず。ましてや、貴方はジャングル村の創設者です。負ける必要なんてなかったのに」


 ウイルは真剣な眼差しで、ジャングル村のテントを眺めた。


「俺は、ジャングル村をこれから発展させていかなきゃならない。そのためには、村人たちの信頼が不可欠だ。もちろん、俺自身が強いってことも重要だけど、それだけじゃダメだ」


 言葉を区切り、ウイルは続けた。


「村人たちが『この村には、ウイル様だけじゃなく、こんなにも頼りになる人がいるんだ』って思ってくれた方が、きっとこの村はうまく回る。そして、黒騎士さん。あなたはコーデを守る最高の盾だ。その強さを皆に知ってもらうことで、村人たちはコーデを、そしてこの村を、より一層守りたいと思ってくれる」


 黒騎士は、ウイルの深い思慮に感銘を受けていた。自分のことだけではなく、村全体のことを考えて動く。それが、この若き創設者の真の力なのだと悟った。


「……ウイル殿。私は、あなたを信じます。姫様の目に狂いはなかった」


 そう言うと、黒騎士はウイルに向かって深く頭を下げた。


「どうか、これからも私と一緒に姫様をお守りください。そして、この村を、どうかお守りください」


 ウイルは微笑みながら、黒騎士の肩にそっと手を置いた。


「お礼は働きぶりに期待している。ジャングル村の護衛として村を守り、俺の野望、現皇帝の世界統一を打ち砕こう」


 ウイルの言葉に、黒騎士は大きく頷いた。二人の間には、友情と信頼が芽生え、ジャングル村の未来を切り開く新たな一歩が踏み出されたのだった。

 ウイルは【剣】の勇者として手を抜いた。黒騎士と本当の意味で対峙することがあれば本気を出さなければならない。だが、黒騎士と対峙する未来は杞憂だと思いたかった。将来、コーデと黒騎士を裏切ることになるかもしれない。その時に、黒騎士は最大のライバルとしてウイルに立ちふさがることになるだろうと思えた。


(将来、何があるか分からない。ここで実力を隠すのは理にかなっている)


 コーデは【鑑定】でステータスを見破るとはいえ、真の実力までは戦ってみないと分からない。

 ウイルは思慮深く、石橋を叩いて渡るタイプ。将来、障害になるかもしれない相手に心から信用することなかった。


「よし、黒騎士さん。そろそろ戻ろうか。コーデが心配してる」


 ウイルの言葉に、黒騎士は頷く。二人が模擬戦を行った場所に戻ると、そこにいたのは、村人たちに囲まれて満面の笑みを浮かべるコーデの姿だった。


「ウイル様! 見ましたか? 皆さん、私の【鑑定】スキルに驚いて、喜んでくれたんです!」


 嬉しそうに駆け寄ってくるコーデ。その顔は、朝の緊張した表情とは打って変わって、自信に満ち溢れていた。


「さすがだな、コーデ。もう家を建てるための適材適所は決まったのか?」


 ウイルが尋ねると、コーデは胸を張り答える。


「はい! 大工の経験者はもちろん、力仕事が得意な人、指示系統をまとめるのが上手な人、女性陣には内装や食事の準備をお願いしました。これなら、今月中に最初の家を何軒か建てられるはずです!」


 コーデの言葉に、村人たちからも拍手が沸き起こる。


「では、早速、家を建てる作業に入ろう。ウイル商会の社長候補も、今日中に見つけたい」


 ウイルがそう言うと、コーデは少し真剣な表情になって、ウイルの耳元で囁いた。


「ウイル様。ウイル商会の社長候補、実はもう見つけました」


 ウイルは驚いてコーデを見る。


「もう? 誰なんだ?」

「彼です」


 コーデは、集まった村人たちの中にいた、一人の痩せた中年男性を指差した。その男性は、ぼろぼろの服を着ており、顔には深い皺が刻まれていた。周囲からは、「あの男、昔は帝国で商人だったらしいが、詐欺で財産を失ったらしいぞ」という噂話が聞こえてくる。


「彼は元帝国の中堅商会の経営者でした。詐欺に遭って、全てを失ってこの村にたどり着いたそうです。ですが、【鑑定】スキルで彼のステータスを見ると、とてつもなく高い商才と統率力を持っていることが分かりました」


 コーデの言葉を聞き、ウイルは男性に近づいていく。


「もしよろしければ、少しお話を聞かせてもらえませんか?」


 ウイルが優しく声をかけると、男性は驚いた顔でウイルを見つめた。


「俺に……話すことなどありません。どうせ、詐欺師だった俺なんて信用できないでしょう」


 男性は自嘲気味に笑った。

 しかし、ウイルはまっすぐに男性の目を見て言う。


「過去は過去だ。俺が見ているのは、あなたの未来だ。失ったものを取り戻したいという気持ち、まだ残っているんじゃないか?」


 ウイルの言葉に、男性の目から涙がこぼれ落ちる。


「……はい。残っています。いつか、もう一度、故郷で胸を張って歩けるようになりたかった」

「だったら、このジャングル村で、もう一度やり直してみないか? ウイル商会の社長として、俺と一緒に世界をひっくり返そう」


 ウイルの言葉に、男性は茫然と立ち尽くす。

 そこへ、黒騎士が静かに口を開く。


「ウイル殿は、ただの村の創設者ではない。あなたは、この村の、この世界の希望となるべきお方だ」


 その言葉に、男性はついに膝から崩れ落ち、ウイルに深々と頭を下げた。


「黒騎士様。コーディリア様。ウイル様……この命、あなたに捧げます。この身朽ち果てるまで、あなたのお力になりましょう!」


 こうして、ウイル商会の社長という重要なポストが埋まり、ジャングル村の開拓は一気に加速することになった。


――


 さらに1か月が経過した。

 ジャングル村には、家が立ち並び、小さな商店街もでき始めていた。

 村人たちの顔には活気が戻り、子供たちの笑い声が村中に響き渡っている。


「ウイル様! 今日の売り上げです!」


 ウイル商会の社長となった元商人、バサーニオが、嬉しそうに報告に来る。彼の顔は、以前の痩せこけた様子からは想像もできないほど、健康的で、自信に満ち溢れていた。


「順調だな。次は、水道と電気のインフラ整備に取り掛かろう」


 ウイルがそう言うと、バサーニオは興奮気味に頷く。


「はい! 必ずやり遂げてみせます! そして……」


 バサーニオは少し躊躇いながら、ウイルに尋ねた。


「ウイル様。一つお聞きしてもよろしいでしょうか? あなたの目的は、本当にこの村を発展させることなのですか?」


 ウイルは微笑みながら、バサーニオの肩を叩く。


「この村を発展させて、多くの人が笑顔で暮らせる場所にする。それが、俺の最大の野望だ」


 バサーニオは、ウイルの言葉に、心から安堵の表情を見せた。


「この村が、帝国の歴史を変える場所となる日も、そう遠くないかもしれませんね」


 バサーニオの言葉に、ウイルは何も答えず、ただ遠くの空を見つめていた。その瞳には、ジャングル村のさらに向こう、世界の統一を夢見る現皇帝の姿が映っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ