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第6話 道化のコーディリア

「私の英雄スキルは【鑑定】です。光の君」


 コーディリアの言葉に、ウイルは息をのんだ。【鑑定】。それはあらゆるものの本質を見抜く、英雄の中でもごく稀にしか発現しない固有スキルだ。

 しかも、彼女はウイルのことを「光の君」と呼んだ。


「その呼び方……どういう意味ですか……?」


(光属性の【剣】の勇者が闇属性の帝国に潜入していることがバレた!?)


 早急に目の前の落ちこぼれ姫を消そうか? いや、浅慮すぎる。ここで事件を起こしては見張りの黒騎士が飛んでくる。闇属性の領土で光属性は力が半減する。勝ち目はない。ウイルは一度、冷静になって会話を求めた。


「光の君とは……?」


 ウイルは平静を装いながら尋ねた。

 コーディリアは少し微笑み、静かに答える。


「あなたの本質を表す言葉です。それはあなたの生い立ちや過去、そして未来にまで深く関わっています。あなたはかつて、光を操る英雄として知られていた。その記憶は、あなたの中に深く封じ込められているけれど、鑑定によってその片鱗が見えました」


 ウイルは言葉を失った。

 彼は前世で、この世界とは全く異なる地球という場所で暮らしていた。そして、病で命を落とし、この世界に転生した。

 しかし、その前世での記憶は朧げで、特別な力を持っていたという自覚はなかった。


「あなたには、自分自身の記憶がないようですね」


 コーディリアはそう言って、ウイルの心を見透かすように見つめた。


「私の【鑑定】は、ただ情報を読み取るだけではありません。相手の魂の奥深くに触れ、その真実を映し出す力。あなたが『光の君』であることを、私のスキルが証明しました。そして、その力は今も、あなたの身体の中に眠っている」


 ウイルは自分の両手を見つめた。

 ただの村人であると思っていた自分の中に、そんな力が眠っているというのか。


「しかし、どうして私に……?」

「なぜでしょうね」


 コーディリアは首をかしげた。

 二人の間に沈黙が流れる。

 ウイルはコーディリアの言葉が真実であることを感じ取っていた。

 彼女の瞳の奥には、嘘偽りのない、まっすぐな光が宿っていたからだ。


「……それで、お馬鹿なことに熱中している、というのは」


ウイルは話題を変えた。

すると、コーディリアは頬を少し赤らめ、はにかむように微笑んだ。


「それは、私のお茶目な秘密です。ウイル様、私の鑑定は、あなたが求めていた人材は、私だったと告げています。もちろん、タダ働きはできませんが」

「はい。そのことについては、きちんと対価をお支払いします。まずは、お互いに腹を割って話しませんか?」


 ウイルはそう言って、コーディリアを椅子に促した。

 二人は対面で座り、互いの素性を、そして、なぜこの出会いが必然だったのかを話し始めた。


 コーディリアは【鑑定】スキルがもたらす情報の洪水に苦しんでいた。

 あまりに多くの情報が流れ込んでくるため、彼女はそれを処理しきれず、時折、学園での授業にも集中できなくなってしまうのだという。

 政治や経済に興味がないと園長に言われたのは、それらの膨大な情報が彼女の頭を混乱させ、疲弊させるからだった。

 コーディリアは自身のことを『道化のコーディリア』と呼んだ。

 英雄スキル【鑑定】を隠しながら、負荷に耐えつつ、生活しているのだ。


「私の【鑑定】は、あなたがジャングル村で何を成し遂げるかも教えてくれました。誰もが不可能だと思っていた開拓事業を成功させ、そこに新たな社会を築き上げようとしている。それは、帝国のどの政治家や貴族よりも、よほど価値のある事業です」


 コーディリアの言葉は、ウイルが抱えていた不安を打ち消し、大きな自信を与えてくれた。


「だから、私はあなたに協力したいのです。私のスキルを、本当に価値のあるもののために使いたい。あなたの理想を、私自身の目で見てみたいのです」


 その言葉は、まるで光のようにウイルの胸に響いた。

 彼女は、単なる落ちこぼれのお姫様などではなかった。

 自らの才能に苦しみながらも、その力を正しく使おうとする、心優しい英雄だったのだ。

 ウイルは戦争を止めるために働いていることを明かした。帝国の現皇帝の野望を打ち砕き、光と闇が手を取り合って、王国と帝国に再び和平を取り戻したいと言った。


「ぜひ、うちで働いてください。あなたの【鑑定】の才能を、この手で開花させてみせます」


 ウイルは手を差し出した。

 コーディリアは再び、その手を取る。

 そこにあるのは、互いの信頼と、未来への希望だけだった。


「素晴らしいお考えです。ありがとうございます。私のことは『コーデ』と呼び捨てにしてください。ウイル様」

「ありがとう。コーデ。素晴らしい協力関係を築けたと思っている」

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