第4話 内政ヒーロー
奴隷商と懇意になり、貴族とのパイプを繋いだウイルの、ここ一か月の動きは目まぐるしいものがあった。
インペリウムの商会や冒険者ギルドを回り、挨拶する。優秀な人材を引き抜き、ダンジョン攻略会社のウイル商会に引き入れる。もちろんその前に起業した。名前はウイル商会。会社を作り、革命軍の前身を作った。
また、ウイルは村を開拓して観光地にする計画を立てた。インペリウムから離れた森に村を開拓して、そのままインペリウムと貿易をしながら、観光地化する計画を立てた。名前はジャングル。ジャングル村と名付けた。
ここでウイルは選択肢に迫られる。
「ウイル商会とジャングル村の長が必要になってくる」
マネーマシンを作るには優秀な部下や外注がマストになってくる。ウイルは一か月でウイル商会とジャングル村の誕生に貢献したが、ここからは外部の力を借りることにした。
リーダーたる器の人物をスカウトせねばらならない。
ウイル商会は、ダンジョン攻略にあたってA班とB班のスカウトに成功している。
A班は、戦士、タンク、魔法使い、盗賊の正統派の4人パーティー。
B班は、エルフ、ドワーフ、盗賊、盗賊のイロモノの4人パーティー。
ダンジョン攻略では盗賊の影響がかなり大きくなってくる。いくらウイルのような強力なユニットがいても罠にかかれば致命傷になり得る。優秀な盗賊がダンジョン攻略のカギを握っていると言っても過言ではない。
一方、ジャングル村の住人は孤児から補充した。戦争被害者や難民も連れてくる。奴隷商のように無理やりさらうのではなく、きちんと契約してジャングル村のスタッフとして連れてくる。ウイルは村人をキャストと呼んだ。
「来年、ジャングル村を観光地として集客します。それまでにキャストの皆さんはお仕事を覚えてください」
帝国に移住して1か月。出だしとしては好調。ダンジョン攻略会社のウイル商会を起業して、インペリウムから離れた僻地の森でジャングル村を開拓して観光地化する準備をする。また、スモールスタートとして8人の冒険者を雇い、ダンジョン攻略にA班とB班を潜らせる。
あとは半自動化するために、ウイル商会の雇われ社長と村長を雇用しなければならない。金ができれば、王国に食料を届けて、爵位を買って貴族の仲間入りだ。
ウイルは一か月ぶりに奴隷商を尋ねた。
「こんにちわ」
「おやおや、貴族のふりをしたウイル様。お久しゅうございます」
貴族のふりをしていたことがバレていた。
「これで勘弁してくれ」
銀貨1枚のチップを払う。人相の悪い奴隷商はニンマリしてウイルをもてなす。
「ぜひ、我が商会をご贔屓ください。噂はかねがね聞いています。何でも会社とは別に村を立ち上げたとか?」
さすがはインペリウム一の奴隷商。耳が早い。
ウイルは銀貨1枚分の相談をした。
「優秀な雇われ社長と、村長を雇用したい。インペリウムに2名。適材はいるか?」
「3名ですね。あとジャングル村をモンスターから守る護衛が必要です」
「そうだな。勉強になる」
ウイルは見落としていた。普段、ジャングル村周辺のモンスターは自分が狩っていたので村の護衛は必要ないと思っていた。しかし、これからは貿易で村とインペリウムを行き来する時間が増える。ウイルがいない間、村を守る軍備は必要不可欠。
「奴隷商。どうすればいい?」
「本家本元を雇うとなると金がかかります。そうですね……」
奴隷商は数歩動き、頭の中を整理して冷静になり、ウイルにこう助言した。
「インペリウム学園の優秀な生徒を3名、雇用してみるとか?」
「インペリウム学園の生徒?」
インペリウム学園は、帝国の貴族のご子息ご令嬢が国中から集まる歴史ある貴族の学園。社会見学という形でほぼゼロ円で優秀な貴族の子どもを雇用できる。
「ウイル様は何歳になりますか?」
「15歳だ」
「インペリウム学園の1年生と同じですね。気の合う友達を作り、ウイル商会の社長と村長と優秀な護衛を紹介すればいかがでしょうか?」
「さすがは奴隷商。頭が切れる」
社会見学という形で、5年間、インペリウム学園の生徒を雇えば、こちらの費用はゼロ。商売は固定費をいかに安くしてスモールスタートするかにかかっている。ウイルのような小企業は費用を安く商売をするのが生命線。奴隷商のアイディアは、良いアイディアだと素直に感激する。
「ありがとう」
銀貨をもう1枚。チップとして差し出し、奴隷商に頭を下げるウイル。
「いえいえ。たまには奴隷を買ってくださいよ。ニセ貴族様」
「機会があれば」
機会があれば、奴隷商会をM&Aして、会社ごと乗っ取ってやろうとウイルは思った。人相の悪い奴隷商は闇属性という観点を除けば優秀な商人に違いない。光属性の商売を叩きこむ必要がある。
ウイルはまだまだ動く。行動力の鬼だ。
「会社と村を作った。次は学園だ」
ウイルの内政チートは続く。