第3話 マネーマシンの構築
不労所得。ウイルは寝ていても遊んでいてもお金が入ってくる仕組みを作ることを1年目の課題とした。マネーマシンの構築だ。
食堂でたくさんの情報と地図を手に入れたウイルは、翌朝、気持ちの良い目覚めと共にインペリウムの奴隷商会に向かった。
「インペリウムで稼げるのは、奴隷かモンスター退治。そしてダンジョン攻略だ」
昨日、食堂で腕利きの商人から聞いた話だ。
他にも、海に面していない帝国は魚の需要がある。なので、養殖で大金を稼ぐ貴族もいた。しかし、養殖の構築は年月がかかる。なので却下した。
「マネーマシンの構築に必要なのは投資だ」
ウイルは大金を手に、投資で倍々ゲームに金貨が増えていく仕組みを考えた。
投資の基本は【長期・積立・分散】。しかし、ウイルに期限は5年しか用意されていない。なので、長期を短期に変え、極力は分散することを選んだ。
「いらっしゃい。お客さん」
奴隷商会に着くと、人相の悪い奴隷商に挨拶される。自分が貴族であると、あえて嘘をついた。貴族の称号は嘘でも何かと便利だ。ウイルは奴隷商会に入る。金貨の入った袋を見せれば、奴隷商は歓喜の表情を浮かべた。
ウイルは奴隷をパッと見比べた。内装は大理石でできていた。
(儲かってるんだな……)
奴隷とは、孤児、戦争被害者、難民など。さらってくるだけで良いので、元手は、ゼロ。そのくせ貴族とパイプができれば買い手に困ることのない完璧な商売だ。
奴隷商はペットショップの感覚で人間などの奴隷を仕入れているのかもしれない。費用は奴隷の食費だけ。あとは檻の中で寝かせておけば、原価ゼロでじゃんじゃんと儲かる。
(気にくわない)
ウイルも奴隷商をすれば大金を儲けることができた。だけれども、人権を無視して無理やりさらった奴隷を商売にするのは良心が痛む。
「貴族様。奴隷の用途は軍備ですか? 夜のお供ですか?」
人相の悪い奴隷商はニヤニヤと癇に障る表情で聞いてくる。ウイルは奴隷商の顔を見ずに言った。
「戦力が欲しい」
「でしたら国王軍の屈強な男や傭兵あがりを紹介しましょう」
「!?」
奴隷商は国王軍と言った。つまり、元光属性の王国の民が奴隷として売られているのである。王国は奴隷の売買を全面的に禁止している。許されるべきではなかった。
国王軍の屈強な男を開放してやりたい。しかし、ウイルは大事な任務がある。革命軍を作るのだ。費用は最小限に抑えるべき。無駄遣いできなかった。
ウイルは奴隷商の男に相談する。人相の悪い小柄な男でも、インペリウムで一番の奴隷商会を構築している。その腕前をぜひお借りしたい。
「短期間で金を集めたい。何か有用な奴隷はいるか?」
「ほう」
少し考えた後、奴隷商の男は闇属性の闇の部分を大変に発揮した。
「臓器売買はいかがでしょう? 奴隷を買って殺すのです。貴族様や医者に高く売れます」
「却下だ」
「では、若い女の奴隷を買って体を売るのです。娼館を作り、大儲けできます」
「却下だ」
ウイルは困り果てる。確かに犯罪行為に手を染めれば、それこそ貴族から金を盗めば短期間で大量の金貨を手に入れることができる。しかし、それは戦争と同じだ。
帝国の勇者や英雄が出張ってきて、即刻、殺される。光属性の王国の法に背かない程度の良心のある商売がしたかった。
「でしたら、最後に残るのはダンジョン攻略ですね」
帝国には大型のダンジョンがある。未踏のダンジョンは生きて帰ってきたら大量の金銀財宝を手にすることができる。冒険者の間でダンジョン攻略は金持ちになる最短ルートの一つだ。
「なるほど。奴隷商。実は相談があるのだが?」
「相談はいくらでも受け付けますよ。貴族様。さらに深入りなお話ですか?」
「ああ」
ウイルはダンジョン攻略を株式化しようと考えた。
「帝国の冒険者ギルドでダンジョン攻略の出資者を募り、投資を始めたい」
「ほう?」
分散。分散。分散。ロングテール戦略のテールイベントを使う。
「100人規模の冒険者を募り、帝国のダンジョンを完全攻略したい」
「なんと!?」
ウイルは計算した。ダンジョンは運の要素が強い。1人、1人、は無能でも100人も募ればラッキーパンチでダンジョン攻略できる人材が出てくる。100人にお金を支払い、1人がダンジョンをクリアして大金を手にできれば、赤字を黒字化して、十分な元手を手に入れることができる。
さらにダンジョン攻略を習慣化するのだ。
「私はダンジョン攻略の専門店を作りたい。株式を発行してたくさんの商人や貴族からご援助いただけないだろうか?」
ウイルは帝国でダンジョン攻略の会社を起業することを奴隷商に宣言した。