第2話 帝国へ移動
道中。ウイルは旅をしながら、これからのことを考える。5年で帝国を落とす算段を計算する。
「逆算だ」
5年後にゴール。帝国を奪う。4年後までに皇帝に認知される。3年目までに???。2年目までに???。1年目までに???。
逆算すると、4年目までに帝国の超重要人物になり、かの帝国の皇帝に認知されなければならない。もしくは革命軍を率いて敵対する。莫大な費用がかかる。
「先立つものは情報と金か」
ということは、1年目にやるべきことは収集。帝国の情報と金貨を集めるのだ。
農村の少年に扮したウイルは王様から大量の金貨をいただいた。しかし、あまりに豪華に使いすぎると帝国の勇者や英雄の目につく。正体がバレないように行動するのが吉。
「帝国の詳細な地図が欲しい」
ウイルが向かったのは、帝国の中心に位置する都市、インペリウム。人間と獣人の人口が一番多く、皇帝が宮殿を構えている帝国の首都。軍事産業が盛んで帝国内で最も栄えている。
なお、ウイルは風魔法が使えるので、空を飛んで旅の大幅な短縮に成功する。帝国の地形に入ると、闇属性の気配が強まり、光属性のウイルの能力は半減する。これが中立属性ならば、まともに戦えるのに、と悔やむ。
人の目につかないスピードでインペリウムに到着する。時間にして1時間。王国と帝国は風魔法があれば、飛んで1時間で着く距離に位置する。
魔力を消費しすぎたので、ウイルは今日の活動を終了した。風魔法の飛行は消耗が激しい。近くの宿屋に入り、獣人族の女将さんに銀貨を渡す。
金貨1枚は銀貨100枚分。銀貨1枚は銅貨100枚分。金貨は5枚で平民の平均年収に相当する。銅貨1枚でジュース1本が買える相場だ。
女将さんは気前よく銅貨のお釣りを返す。
「旅の人かい? 珍しいね」
「はい。故郷を追われて帝国に移住しようと考えています」
ウイルは正直に答えた。移住して、そのまま帝国を乗っ取るとは口が裂けても言えない。
「故郷を追われて? 変だね。さっき袋の中に金貨がチラッと見えたが、どこぞやの貴族様かい?」
(しまった……)
金貨1枚あれば質素に暮らせば1年分の生活費になる。5枚あれば平民の平均年収。10枚あれば質素な家が建つ。ウイルの袋には最低10枚の金貨が入れてあった。
「護衛をつけずに大金を袋に持ち入れて歩くなんて不用心だよ。盗人に気をつけな。インペリウムにも治安の悪い場所は存在する」
獣人の女将さんが心配してくれる。ここは安宿。決して、治安が良いとは言えない。
「あははは。没落した貴族ですよ」
笑ってごまかすウイル。安宿の構造は1階は食堂。2階から3階が就寝スペースになっている。数人の旅人らしき姿をした人が食堂でビールを飲んでいた。
時刻は夕食。空の日が落ちて暗くなった頃合い。腹が減る。
(情報収集するか。ノーペイン・ノーゲイン。痛みなくして、得るものなし)
ウイルは銀貨10枚を女将さんに渡した。
「食堂にいる全員の食事は私が払います。じゃんじゃんビールを運んでください」
「おかしな貴族様だね。了解しました」
獣人の女将さんが銀貨10枚を受け取ると、安宿の食堂にいたお客さんに告知する。「今日はインペリウムにやってきた没落貴族様のおごりだよ」と、全員の食事と一泊分をウイルが払った。
「「「うぉおおおー!!!」」」
食堂は大盛り上がり。ちまちまビールを飲んでいたお客さんは、豪快に飲み干し、おかわりしては食事を食べ、歌を歌う。
ウイルも宴会に参加した。そして、帝国の情報を集めるだけ集めた。
先に金品を払うことで、後から対価を得る。ノーペイン・ノーゲインの法則。ウイルが一番好きな格言だった。
痛みなくして、得るものなし。
☆☆☆☆☆作者より☆☆☆☆☆
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金貨は100万円。銀貨は1万円。銅貨は100円と物価の相場を考えてください。
異世界のエール=ビールみたいな感じです。