第10話 三人の皇子
・第一皇子 ユウゴウ=インペリウム
・第二皇子 キルケゴール=インペリウム
・第三皇子 コーディリア=インペリウム
三人の皇子が次期皇帝として継承者争いをしていた。
「第一皇子のユウゴウは武闘派の20歳。第二皇子のキルケゴールは頭脳派の18歳。そして、私。第三皇子のコーデは落ちこぼれ姫です」
ウイル、黒騎士、コーデの三人で部屋に集まり、話しをする。
インペリウム学園に在籍する第二皇子のキルケゴールは学園内の貴族政治をうまく利用して頂点に君臨している。学園そのものはキルケゴールの独壇場になっていた。
第三皇子のコーデは、自身のことを「落ちこぼれ姫」と評しながらも、その瞳の奥には諦めとは違う静かな光を宿していた。年齢は16歳。長兄や次兄のような際立った才能や実績はないが、その代わり、隠してきた【鑑定】スキル。そして、ウイルと黒騎士という、帝国でも指折りの実力者を従えていることが、彼女の唯一にして最大の「武力」だった。
「キルケゴール兄様は、頭が良いだけでなく、人心掌握術にも長けている。特に学園という閉じた世界では、貴族の生徒たちを巧みに利用して、自分の権威を絶対のものにしている」
コーデは、テーブルに広げたインペリウム学園の内部構造図を指でなぞった。学園は帝国の将来を担う貴族の子弟が集まる場所であり、そこで築かれる人脈と権力構造は、そのまま将来の帝国の縮図となる。
「貴族政治の頂点、ね。兄様は、父上から『次の皇帝に必要なのは知恵と人脈だ』と教えられたことを、忠実に実行している。学園を制する者は、将来の帝国を制する、と」
黒騎士が腕を組み、低い声で言った。彼女はコーディリアの幼少からの付き人であり、彼女の最も信頼する側近だ。
「では、第一皇子ユウゴウ殿下はどうなさっていますか? 武闘派であれば、力による支配を狙うのでは?」
黒騎士が尋ねた。彼女は全身を漆黒の甲冑に包み、常に無表情でいるが、その一挙手一投足からは並々ならぬ実力が窺えた。
「ユウゴウ兄様は、武力で帝国軍の有力者たちを懐柔しようとしているわ。特に国境守備隊や騎士団といった、実戦部隊への影響力を高めることに躍起になっている。兄様にとっては、『次の皇帝に必要なのは強大な軍事力だ』ということよ」
コーデは地図を閉じ、静かにため息をついた。
「二人の兄は、それぞれの信じる『皇帝の力』を集めている。片や頭脳と人脈、片や武力。そして、私は……」
彼女は自嘲気味に微笑んだ。
「落ちこぼれ、よ。学園にはほとんど行かず、武術の稽古も兄様たちほど熱心ではない。父上も、私を継承者争いの蚊帳の外に置いているようだわ」
ウイルは口を開きかけたが、すぐに言葉を飲み込んだ。コーデが自らを卑下しているのではないことを、彼は知っていた。
「ですが、コーデ。学園はキルケゴール殿下の独壇場だと申されましたが、それは、他の二人の皇子が入る隙がないということでしょうか?」
ウイルが、鋭い観察眼で核心を突いた。
コーデの顔に、不敵な笑みが浮かんだ。
「その通りよ。キルケゴール兄様が学園を完全に掌握しているからこそ、誰も私が学園に介入するとは考えない。兄様は私が武闘派ではないことを知っているから、学園に潜り込むための『頭脳』も『武力』も私にはないと高を括っているわ」
彼女は立ち上がり、窓の外、夕暮れの空にそびえるインペリウム学園の尖塔を見つめた。
「でも、ウイル様。貴方という『規格外の武力』を、誰も予想できない形で学園に送り込めたら、どうなるかしら?」
ウイルと黒騎士は、顔を見合わせた。
「私には、兄様たちの持っていないものがある。それは、『落ちこぼれ』という油断、そして……」
コーデは、二人に向き直り、自信に満ちた笑みを浮かべた。
「『第三の道』よ。誰も予想しない、私が皇帝になるための道が」
彼女の計画は、次期皇帝の座を巡る静かなる戦いの、誰もが目を逸らしていた場所――キルケゴールが絶対的な支配を敷く学園――から、静かに、そして大胆に始まるのだった。
コーデがウイルと黒騎士に語った「第三の道」。それは、ウイルをある目的でインペリウム学園に潜入させるという、大胆不敵なものだった。ウイルの持つ「規格外の武力」と、コーディリアの「落ちこぼれ」という立場を利用した、キルケゴールへの奇襲策とは?
「【鑑定】スキルでキルケゴール兄さまの人脈を見定める。そして、人脈をそっくりそのまま頂く」
「さすが姫様。ですが、キルケゴール殿下の人脈とは?」
「兄さまの側近と婚約者を掌握する」




