第1話 英雄になった少年ウイル
光属性の人間が住む王国は窮地に立たされていた。
「【剣】の勇者、ウイル。そなたを英雄に命ずる」
初老の王様から命令されたウイルは、銀色の髪に銀の瞳を持つ少年。年齢15歳。王国では15歳から成人とみなされ、職業につく。【剣】の勇者という職をさずかったウイルは、初任務に王様の前まで呼び出された。
「帝国と戦争して国を奪ってこい」
王国は弱小国家。兵糧攻めで困窮していた。兵糧攻めの相手は闇属性の人間と獣人が住む帝国。表立っては連合を組んでいた帝国から、裏で過剰なまでの兵糧攻めを受けて、王国は食糧危機に瀕していた。
そこで王国の王様は、貿易戦争をウイルに一任し、そのまま帝国を疲弊させて略奪してこい、という無理難題をかす。
「ありがたき幸せ。兵力の規模は何人ですか?」
王国と帝国の全面戦争。【剣】の勇者、ウイルは、英雄として軍の指揮権を一任するものだと思った。しかし、実際は違った。
「一人だ」
「はい?」
耳を疑う。勇者や英雄を集団で有する帝国に一人で戦いを挑め、と。目の前の王様は吐いた。
「身分を偽り、一人で帝国に潜入。仲間を集めて村を作り、そのまま帝国を制圧してこい」
「!?!?!?」
光属性のウイルは、闇属性の帝国では力が半減する。王国の手先だとバレれば、即処刑。戦っても、相手が同じ英雄ならば勝ち目はない。難民と偽り、帝国内で力をつけてそのまま下剋上しなければならない。
無茶な任務だと思った。膝をつき、頭を下げた体勢から汗がしたたり落ちる。顔を上げ、王様に丁寧に反論する。
「我が王よ。進言を失礼します。帝国から兵糧攻めを受けているならば、内政に力を入れて食料を確保する方が先ではないですか?」
ウイルは頭が切れる。剣の腕は一級品だが、そのほかに、本をたくさん読み、学にも自信があった。だから王国を【知識】で立て直そうと考えた。
しかし、王様は苦難の表情を浮かべた。
「手は尽くした。大臣が試算した結果、我が王国は5年で滅びる」
「5年?」
ウイルは頭の中で素早く計算する。余裕があるか? いや、食糧危機に瀕している中、帝国や他の諸国に攻めこまれれば王国はあっさり負ける。長く見積もって5年ということだと、ウイルは理解する。
「そなたは5年で帝国の侵攻を止め、兵糧攻めを防ぎ、王国と貿易しながら、5年以内に帝国を滅ぼせ。帝国を王国に吸収させるのじゃ」
光属性の王国。
闇属性の帝国。
風属性のエルフの谷。
土属性のドワーフ地下帝国。
水属性の人魚の海。
炎属性のドラゴン山脈。
6つの諸国からなる世界。人間が多いのは王国と帝国。それぞれの国家がそれぞれの国を牽制しつつ、なんとか平和を保っている。
「帝国の皇帝は世界征服を目指していると聞く。平和を愛する我が王国とは正反対の考えじゃ」
「それは許せません」
「風、土、水はともかく。神々の領域に達するドラゴン山脈に戦いを挑むのは愚かな事じゃ。イカロスの翼であろうな」
「帝国の皇帝を暗殺するのはどうですか?」
ウイルの提案に、初老の王様は首を横に振った。
「皇帝は周囲に四天王なる精鋭部隊をボディガードにつけている。闇属性の帝国で力を発揮できない光属性の我が部隊は、四天王に勝てる勇者や英雄はいない」
「そんな!?」
「また、表立って事件を起こしたくない。帝国が六国間同盟を破る口実をつくってはならぬ」
「分かりました」
ウイルは理解した。帝国は六国間同盟を破り、裏で兵糧攻めをした。王国の寿命は長く見積もって5年。表立って戦争になれば王国は塵のごとく吹き消される。ウイルは5年以内に、帝国に侵入し、帝国の勇者や英雄、四天王、皇帝から隠れながら国を簒奪しなければならない。
たった一人のテロリスト革命の始まりだ。
「【剣】の勇者、ウイル。そなたは今日、英雄になったばかりだ。このことは機密になっている。帝国にはまだバレていない。農村の少年ウイルとして帝国に潜入せよ」
「御意」
王様の家臣から金貨と荷物袋をもらい、帝国まで旅をする。家族に置手紙を書いて英雄ウイルはただの少年ウイルとして帝国で内政チートを目指す。
期間は5年。それまでにどうにかしなければならない。