第十六話
黒い石の門は、まるで生きているかのように、ギィィ……と軋んだ音を立ててゆっくりと開いた。
中から吹き出す空気は重く、鉄と硫黄が混じったような匂いがした。
「……地獄の入り口かよ」
思わず呟くと同時に、足を踏み出す。後戻りはできない。
門の中は、まるで異空間だった。空も大地も存在せず、ただ赤黒い空間に無数の浮遊する岩と階段、そして奥へと続く一本の光の道。
その中央に、男が立っていた。
漆黒の鎧を纏い、背中には二本の大剣。目元は仮面で覆われ、ただそこに『在る』だけで、空間すべてが圧迫されるような威圧感。
「待っていたぞ、九条蓮」
声は低く、空間そのものが共鳴するように響く。
「お前も……“最深層”の番人か?」
「否。我は、最深層の監視者」
男が一歩、こちらへ足を踏み出しただけで空間が軋む。
「その力、魂の格、意志の強さ……すべてを試す。
――神に至る資格があるかどうか、な」
俺は剣を抜いた。
手の震えはない。むしろ、熱い。
「試すだと? だったら、叩き潰して証明してやるよ」
オーバーロードが二本の大剣を引き抜くと、背後の空間が震えた。
「ならば始めよう。“神殺し”の前哨戦を」
空間が砕ける。
光と闇が交錯する中、俺たちの激突が始まった。