第十話
一瞬の沈黙。
観客たちは息を呑み、闘技場全体がまるで凍りついたかのような緊張感に包まれていた。
ユウトは微動だにせず、ただ鋭く俺を睨みつけている。
「……来ないのか?」
俺が声をかけたその瞬間――彼の姿が掻き消えた。
「っ!?」
視界の隅に黒い閃光。
反射的に身を引き、剣で受け止める。次の瞬間、鋭い衝撃が腕を襲った。
「速ぇ……っ!」
ユウトの短剣は、信じられないほどの速度と精密さを持って俺に迫ってくる。攻撃をかわすのがやっとだ。
だけど、その一撃一撃には“迷い”がなかった。
まるで長年、命を奪い合う戦場で戦ってきたかのような、完成された殺意。
「お前……何者だ……!」
問いかけるも、ユウトは無言のまま再び襲いかかる。
その時、刃と刃が交差する音の中で、かすかに彼の唇が動いた。
「……邪魔するな」
その声は、冷たく、どこか哀しげだった。
「邪魔?……おい、ふざけんなよ」
俺は剣を振り払って距離を取り、改めて構える。
「だったら……本気で行くぞ、ユウト!」
お互いの気迫がぶつかり合い、空気がビリビリと震える。
観客たちが再び歓声を上げ始める中、俺たちは再び衝突した。
同じ世界から来た者同士の、本気の戦いが今、火花を散らす。