第九話
次の対戦相手が現れるまでのわずかな時間、俺は剣を突き立てたまま、思考を巡らせていた。
“最深層”――あの不気味な声が残したキーワードが、頭から離れない。
ただの闘技場じゃない。この場所には、もっと深くてヤバい何かがある。
「……ま、考えても仕方ねぇか」
力を証明するしか、この世界じゃ生き残れない。それがすべてだ。
そんな時だった。
『次なる対戦者、入場!』
アナウンスの声とともに、闘技場の東門が開いた。
そこから現れたのは、予想もしない存在だった。
「……え?」
出てきたのは、俺と同じ“日本の制服姿”をした少年だった。
黒髪に、冷たい目つき。手には黒い短剣を持ち、無言でこちらを睨みつけている。
『挑戦者の名は――真神ユウト(まがみ・ゆうと)!異界より召喚されたもう一人の戦士だ!』
「マジかよ……俺だけじゃなかったのか」
観客の歓声が鳴り響く中、ユウトは一言も発さずに、ゆっくりと構えた。
その姿勢、気配、すべてがただ者じゃない。
俺の心臓が、強く脈打つ。
「いいぜ……来いよ、ユウト」
同じ世界から来た、別の“俺”かもしれない存在。
ここからは、単なるバトルじゃない。
全神経を集中させ、俺は剣を握り直した。
――異世界最強の座を懸けた、本物の戦いが始まる。