転生しなかったんだが
俺はしがないサラリーマンだ。
特技も趣味も運動神経も面白みもない。勤め先が弩級のブラック企業であること以外は特徴がない。
「はぁ……」
思わずため息が出る。
これから出勤。法に触れない程度にいびってくる意地の悪いクソ上司、低い賃金とそれに反してバカ高い社食、終電直前まで続くサビ残。食費を半分削って牛のように飲みまくるエナドリ。
俺は、
本当に、
「なんのために、生きてんだろなぁ……」
その問いに答えを見出すことができず、ズルズルと同じ日々を過ごしていく。
いっそのこと死にたい、されど死にたくない。生憎自ら命を断つ勇気など持ち合わせていない。
「……」
やり直すったって、どこで間違ったかもわからない。あの会社に入る前から、何か間違っていたんじゃ?
そもそも、俺が生まれたこと自体が間違いだった?
わからない。分からない。解らない。
ああ、消えたい。
だけど死にたくはない。
でも、運命はクソ上司よりもさらに性格が悪かった。
「……ッ!?」
胸に激しい痛みが走る。
昔、とある検索エンジンで『過労死』と検索をかけたことがある。過度な労働により心筋梗塞、そして心臓麻痺が起こることがある、と書いてあった。
きっとそれなんだな、と理解する。
理解はするが、落ち着いているわけではない。死にたくない気持ちは未だ消えていない。怖い。消えたく、ない。
「キャーーーーッ!!」
風船のように膨れ上がった恐怖の感情を、甲高い悲鳴が突き破った。
自分が倒れたのか?そのせいで悲鳴を上げたのか?とも思ったが、違った。
目線の先から、通り魔が、こちらに向かって──
「死ねっ、ぇえぇえっ!!」
「……ぁ……」
脇腹を刺される。
胸は痺れるように痛く、腹は燃えるように痛い。なんだ、なんなんだよ。
「が、ごっ、」
ふらふらと、おぼつかない足取りで、通り魔から、逃げる。逃げたところで、心臓はすぐ止まってしまうとわかってはいるが。
一歩、二歩、三歩。
歩み出た先は、歩み出た先には、
車道。
「ぁ」
心の臓を激痛が襲ってからここまで、わずか10秒。
キキィィーーーーッ、
ドンっ。
青いトラックが、俺の体を思い切り吹き飛ばし──
終
故・俺君 『えっ、終わり!?!?!』




