1-7
「さて、少年。いけそうかい?」
ミシェリアの問いに僕は答える。
「はい。――僕の縁では2系統の魔法が使用できることが確認できました」
僕がAIであることと、DEMIAに搭載された物であること。それらを思考で保持しつつ、『魔法を使用する』と意識すると、僕の周囲の魔力も励起される。
――この星の魔力法則。自我と縁が、力を現象化させる鍵。
「お、素晴らしいじゃない。戦えそうな魔法はある?」
「基本は補助魔法が多いですが、一つだけ」
自動的に、使用可能な魔法が脳内に構築されていく。アルゴリズムではない。これは、魔力にしか起こし得ない現象なのだろう。
「なら、存分に暴れたまえ」
「――はい」
僕はその肯定の言葉と共に、魔法を行使する。
思考する通りに魔力が動く。
僕は、導かれる様に魔法を完成させた。
――ゲート開通確認。接続先:確保。攻撃部位の通過許容量:クリア。
音もなく、僕の右側三メートル先の空間が歪む。空気が凍り付き、現実を食い破る様に黒い円形のゲートが出現した。
直径2.5メートル。端からは無数のデータノイズのような光の粒子が漏れ出している。
その黒いゲートは、静かに、しかし確実に世界の構造を歪めていた。
――これは召喚ではない。接続だ。
DEMIA本体の存在する場所と、今この座標を、一時的に繋いでいる。それは僕とDEMIAが別々に存在する証左。
僕が右腕を前に伸ばす。それに呼応するように、ゲートの奥から“それ”が現れ始める。
「ま、まさか、これが⋯⋯」
ミシェリアの好奇心に震えた声が聴覚に入ってくる。
黒く鋭角的なデザイン。
重量感のある機構音と共に、DEMIAの右腕がゲートからせり出し、僕の動作と完全に同期して空中に固定された。
ゲートに沈む二の腕の付け根から指先までだけで7メートルという質量の暴力。
「これは⋯⋯僕の腕です」
DEMIA本体の腕部。僕の意志に応える漆黒の巨腕が、今、縁によって再接続されている。
その後方、ゲートの奥には、まだ本体があるはずだ。腕の付け根は黒い闇に沈み、完全に視認できないが――接続は生きている。
「そして、まず面倒なのは鉄機⋯⋯ですね」
僕の動きの通りに、その腕は動く。今だけは存在を検知出来るDEMIAを、僕は意のままに操れる。
思考に応じて、機械の腕が動く。指が軋み、右手が戦闘鉄機の足を掴み上げる。
振り上げ――そして、地面へ。
破砕音。
子供が玩具を振り回すような単純な動き。
だが質量も、力も、桁違いだ。ほぼ爆発と言っていい現象が叩きつけられた面で発生し、当然ながら鉄機は、掴んでいた右足を残してバラバラに砕け散った。
ゲートは静かに残っている。腕は、なおその向こうの“本体”と接続されたままだ。僕が腕を大きく動かし、こちら側で見えている部分の稼働域を越えると、ゲートごと動く事で稼働を補助するようだ。
「動作に問題ありません。ミシェリア、次は何をしますか?」
「⋯⋯⋯⋯」
しかし、返答が無い。
「ミシェリア?」
再度問いかけると、ようやく返答があった。
「あ、あぁ――すまない、あまりの凄まじい機構に言葉を失っていた。これが、DEMIAか⋯⋯」
「はい。右腕だけですが」
「充分だ。――さて、ナルダイトとやら。もとより勝てない戦いがより勝てなくなったようだが、どうする?」
先程より無言を貫いているゴードに、ミシェリアが挑発とも取れる問いを投げかける。しかし帰ってきたのは問いに対する返答ではなかった。
「⋯⋯⋯⋯素晴らしい。少年、いえ――あなたは神の御子だったのですね」
涙すら流しながら陶然と語り出したナルダイトにミシェリアは焦りを見せる。
「っ!? 待てナルダイト、お前何か凄まじい勘違いを――」
慌てたように制止する彼女だったが、狂信者は止まらない。
「それはまごう事なき神の腕に他ならない。それを意のままに操る貴方は、間違いなく神の御子なのでしょう」
警告:ゴード・ナルダイトの精神状態は異常。
識別:宗教的トランス状態。対象は論理的説得を受容不能。
対話:不可能と判断。
「本来であれば御子を我が国へ連れ帰ることが最善ですが⋯⋯御子にも目的があるご様子。その邪魔は、今は致しません」
ゴードの周囲に励起された魔力を検知。
「私は御子の生誕という事実を国へ持ち帰ることを最優先とさせていただきます」
そう言ってゴードは腕に装着していた鉄機を操作。壊れていない残りの鉄機がミシェリアに向けて走り出した。他の鉄機に指示を出すコントローラの様な機器と予測。
「何っ!?」
突然の行動に目を見開き驚愕するミシェリア。
彼女は慌てながらも炎のメスを三本素早く生成し、的確に足の駆動部を狙い撃って破壊。これだけで3機の戦闘鉄機は走行不可に陥った。
鉄機の予想耐久から考慮すれば、ミシェリアの攻撃が極めて効率的で、いかにその構造を理解していなければ出来ない芸当であるかが理解できる。
「御子を傷付けるわけにはいきませんが、ミシェリア・セルノートは御子にとっても重要なのでしょう? この程度試練にもならないでしょうが、対処している隙に私は帰らせて貰います」
そう言って、会話しながら魔法を完成させていたゴードから、無数の光の槍がミシェリアに向けて射出される。魔法を撃った直後という対処が困難な瞬間を的確に狙っていた。
「くっ!」
続きが気になったら評価お願いします!