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「再生には限界があるのでしょうか⋯⋯?」


「そうらしい。⋯⋯というか結構ショッキングな場面を見せちゃった気がするけど、最初に気にするのはそこなのね」


「戦闘補助AIですから。それでなくとも前DEMIA使用者は傭兵です。効率的に敵性存在を処理することには理解があります」


「そういうことが言いたいんじゃないんだけど⋯⋯ってそれよりもっと気になること言ってるじゃない! 前使用者!?」


 聞き捨てならないことを聞いたように目を丸くして驚愕するミシェリア。


「はい。前DEMIA使用者は傭兵でしたので、頻繁に戦闘は発生していました。そもそもDEMIAは兵器ですから、当然ですね」


「エーアイってのがよく分からなくて、てっきり君が搭乗してた、もしくはDEMIAの一部が君になったって話かと勝手に思っていたよ⋯⋯」


「そうでしたか。説明不足で申し訳ありません。AIは『人工知能』の略称です。この星の技術水準で正確に理解できるかは不明ですが、知的生命体によって、その活動をアシストする目的で、あらゆる知識を学習させて作られる非生命体。人どころか、生物ではありません」


「非生命体が人間に⋯⋯なるほど、そういうことかぁ⋯⋯」


 全て腑に落ちたかのような表情で頷くミシェリア。


「理解出来たのですか?」


「いや、正直意味が分からん部分は分からんままだった⋯⋯でも納得はした」


 僕と目が合う。


「君は表情が全く変わらない。そしてあらゆる動作が滑らかすぎるんだ。それがずっと違和感だった――例えば、右手を挙げてごらん?」


 言われた通りに右手を挙げる。


「下げてごらん。で、もう一度右手を挙げて?」


 一度下げ、再度挙げる。


「やっぱりだ。寸分違わず同じ場所、同じ高さまで手が上がっている。そこに人にあるべきブレが全く無い」


 納得出来る説明だった。確かに生物ならば脳からの信号というのを動作ごとに全く同じにすることは事実上不可能とされる。

 しかしAIが脳を操作するのであれば、動作というコマンドは常に定数を入力する為、ブレが発生しようが無い。


「ミシェリアは目が良いんですね」


 言った直後、ミシェリアはわずかに眉を上げて笑った。――好意的な反応。


「研究者だからね。君のそういう”人らしくなさ”は、やろうと思ってできる物でもない。だから色々点と線が繋がってなるほどと言ったんだ」


「そういうことでしたか。理解しました」


「それなら魔法も見せたし、驚愕の事実も知ったし、帰ろうか」


「そうですね」


 僕らは来た道を戻ることにした。

 頭上の枝葉は相変わらず視界を薄暗く保っている。時折、ミシェリアの長い髪が風にそよぎ、僕の視界の端をかすめた。


 再び森の中を歩きながら、僕は彼女に問いを向ける。


「そういえば魔法ですが、僕も行使出来るでしょうか? 現在僕には戦闘能力がありません。例えば先程の魔物に襲われた場合、僕のみでは確実にこの体は完全に破壊されてしまうでしょう。戦闘手段として、魔法が会得できれば最善なのですが⋯⋯」


 長めの発言に、ミシェリアは一瞬だけ立ち止まった。

 その間、約0.8秒。思考の停滞と見られる沈黙。


「人間なら誰でも使えるようになるはずだけど、どうしたの?」


 懸念事項あり。

 魔法の起動条件に対し、僕の現在の状態は明確に分類されない。


「人間かAIか曖昧な今の状態の僕でも使えるか不明です」


 僕は外見のみ人間なだけで生物的には人では無い可能性すらある。非生物であるAIが人になった以上、魔法が使える保証はないだろう。


「あぁ、それなら君はしっかり人間だよ」


 しかしそんな僕の思考を知ってか知らずか、確信を持って言ってのけるミシェリア。


「君を拾ってすぐ、起きるまでに一通りの検査はしていたんだ。外傷が無くても、中身の方は外からじゃ分からないからね」


 そうして歩みを止め、こちらに向き直る。


「いろんな道具や魔法を使って検査した結果は正常、内臓に負傷も無く、至って普通の人間だった。その時はつまらない結果だとさえ思ったよ」


 彼女の好奇心の強さを考慮すれば、その感想は理解出来る。


「だから魔法は間違いなく使える。後でレクチャーしてやるからしっかり覚えたまえ。⋯⋯AIは非生命体だと言ったね。ならせっかく人になったことを楽しめばいいんじゃない? それだけ体が上手く使えることも、大きなアドバンテージだ」


 そばに近寄ってきて、頭を撫でてくる。尻尾をゆらゆらと揺らしながら、⋯⋯これは、励まされている?


「⋯⋯何故、撫でられているんです?」


 撫でられることに不快感は無い。恐らくこれは子供に向ける動作。僕の外見から推測される年齢帯に対しては至って普通の行動だが、僕がAIだと知った今なお、何故?


「私が撫でたいと思ったからだ」


「そ、そうですか」


 彼女は満足するまでひとしきり撫でた後、上機嫌に身を翻し、再び歩き始める。

 僕はここに来る時と同様に、その後ろを追従していった。


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