表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/18

8


「すいません、道に迷ってしまったんです。申し訳ないのですが、一晩泊めていただけませんか」


 不躾なことは承知の上で、俺は頭を下げた。

 既に辺りは薄暗い。

 これから森の中を進めば道に迷い、野宿をすることになるかもしれない。


「まあ。それは大変ですわね」


 女性は一瞬驚いた表情になったあと、すぐに優しく微笑んだ。


「どうぞどうぞ、お入りくださいませ」


 扉を開き、躊躇なく中へと誘導する。

 

「え、あの、い、いいんすか?」


 思わず聞いてしまう。

 さすがに上手く行き過ぎだと思った。 


「もちろんです。道に迷ってお困りなんですよね?」

「は、はい、そうなんですけど」

「それなら、どうぞ」


 満面の笑みで小首を傾げる。

 美しい金の髪がたらりと垂れた。


「あ、ありがとうございます」


 俺は刹那躊躇ったあと、屋敷の中へと足を踏み入れた。

 そしてその途端、違和感に気付いた。

 エントランスホールが明るかったのだ。

 頭上には豪奢なシャンデリアがあり、その光が煌々と駄々広い玄関を照らし出している。

 さっき外で屋敷を見たときは、確実に暗くなっていたはずだ。


 バタンッ、という大きな音がして振り返る。

 すると、玄関の扉が閉まり、がちゃり、と重々しい施錠の音がした。


「疲れたでしょう。さあ、こちらへどうぞ」


 彼女はそう言うと、屋敷の奥へと向かった。

 い、今のはどういうカラクリだ?

 自動で閉まるような装置でもあったのか?

 俺は少し躊躇ってからついていった。

 耳の裏で、扉が閉まったときの大仰な音が、いつまでも響いていた。


 ▼


 それから俺は寝室へと通された。

 縦横に廊下が伸び、とてつもなく広い屋敷だったが、彼女以外の人間は見かけなかった。

 道々、女性は大変でしたわねと俺を労った。


「私はリーゼと申します。リーゼ=ルーラー」

「俺はタナカと言います」

「タナカ様、ですか。珍しいお名前。旅の御方ですか」

「ええ、はい、そうです。すいません、いきなり訪ねて来て」

「大丈夫ですよ。時折、いらっしゃるんです。この辺りは人家がなく魔物も多いですから」

「そうなんですか。えと……リーゼさんは、この屋敷に1人で住んでらっしゃるんですか」

「はい。かつては父と母も住んでいたのですが、2人とも早くに亡くなって。跡取りがいないものですから、私が1人遺される形で」


 そうなんですか、と俺は相槌を打った。

 平静を装おってはいたが、俺はいよいよ訝った。

 この女性はどうして1人でこんなところに住んでいるのか。

 どうして1人きりでこのような豪華なドレスを着ているのか。

 屋敷の手入れは誰がしているのか。

 彼女の身の回りの世話は誰がしているのか。

 頭の中で様々な疑問が生まれては消えていった。


「今日はちょうどパーティーがあったんです」


 まるで心を読んだように、女性は再び口を開いた。 


「パ、パーティー?」


 俺は眉を寄せた。


「ええ。とても良い催しになりました」

「こ、こんな森の奥で、パーティーを」

「はい。遠方から多くの来賓がいらしてくれて。私もすごく楽しかった」

「は、はあ。それは、いつ頃まで」

「つい先ほどまで。最後のお客様を送り届けたすぐ後に、あなたが訪れた」

「そ、そうなんですか」


 俺の胸は早鐘を鳴らし始めた。

 明らかにおかしいと思った。

 この屋敷は、俺がやってくるまで完全に真っ暗だった。

 そして、この袋小路にある屋敷にやって来るには、あの細い脇道を通るしかない。

 俺は、()()()()()()()()()()()


「さあ、ここでございます」


 リーゼは扉の前で立ち止まり、扉を開けた。 

 俺はすいませんと会釈をして中に入った。

 室内は薄暗かった。

 設えられた燭台の上で蝋燭の火が頼りなく揺れている。

 ここに至り、俺は確信した。

 この人は嘘を吐いている。

 俺は辺りを見回した。

 寝室はまたぞろとても豪華だった。

 ダブルサイズのベッドが3つ置いてあり、四方には高価そうな調度品が並べられてあった。

 

「それでは、ごゆるりとお休みくださいませ」


 リーゼは優雅に挨拶をして踵を返した。

 あの、と俺は背中に声をかけた。


 それから彼女に向かって――



 A あの、この蝋燭の火は誰が灯したんでしょうか。  と、聞いた。


 B 貴様、人間のフリをした化け物だな! と、先制攻撃を仕掛けた。




 Aを選んだ方は 10へ


 Bを選んだ方は 11へ



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
 即死じゃないっ⁈  ザキだっ!……じゃなくてサギだっ!  いえ、私はこれでも紳士なのでAの10へ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ