6
俺はしばらくそこで様子を見ることにした。
迂闊に動くことは危ない。
山で遭難した場合、下手に動くよりはじっとしといた方が良いと聞いたことがある。
俺はしばらくその場で待機した。
そうして日が傾いて、辺りがオレンジに染まり始めた頃。
俺はなんとなく焦り始めた。
このままここで夜を迎えたら、辺りは真っ暗闇に包まれる。
ぞくり。
なんとなく殺意を感じて辺りを見回した。
既に薄暗くなり始めている。
や、ヤバい。
俺は何をしていたんだ。
ここに至り、俺は自分の愚かさに気が付いた。
ただ漫然と時が過ぎるのを待つなんてどうかしていた。
動かなければ何も始まらない。
俺はとにかく足を踏み出した。
ガサッ。
草陰から物音がした。
そしてそれはザザザザザと、360°円を描くように派生していった。
か――囲まれてる?
俺は女神さまからもらった剣を手にした。
型もなにも分からないがそれを構えた。
俺は覚悟を決めた。
どんな奴が現れるか分からないが――闘ってやる。
俺は女神さまから見込まれた勇者なんだ。
だが――敵は予想したものとはまるで違った。
ガサガサ音は徐々に増していた。
どこから飛び出してくるかと待ち構えていたが、一向に姿は現れない。
ただ、音だけが大きくなっていく。
ふと、足元に違和感があった。
何やらムズムズとした感触があった。
下に目をやったとき、俺はひっと小さく悲鳴をあげた。
夥しい数の蟲が、俺の足元へと登って来ていた。
俺は慌ててぴょんぴょんと飛び跳ねながら、登ってくる蟲たちを振り払った。
だが、あまりに膨大な数の蟲たちは、払っても払ってもキリがなかった。
その内の1匹を摘まんでみた。
蟲は僅か2センチほどの大きさだったが、凶悪な顎を持っていた。
指先にチクッ、と痛みが走った。
そして次の瞬間、そこは火がついたような激しい痛みに変わった。
嚙まれた痕は忽ちの内に赤く腫れ上がり、気が狂いそうな痛みが襲った。
チクッチクッ、と足元で同様の痛みが走った。
目をやると、既に腰までびっしりと蟲たちで覆われていた。
俺は血の気が引いた。
1匹であの痛みだったのだ。
俺はこれから、どれだけの痛みに耐えなければならないのか――
そこまで考えたとき。
常軌を逸した凄まじい痛みが何重にも波状して襲ってきた。
僅か1分もしない内に、俺は全身を凶悪な蟲に覆われた。
断末魔をあげると、口内に蟲が侵入してきた。
俺は体内と体外を同時に抉られ、悶えながら息絶えた。
おしまい